明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
──父上、母上へ

久しく手紙をしたためることなく失礼いたしました。
本日は、どうしてもお伝えすべきことがあり、筆を執ります――


 その背後、誰の目にも映らぬところに、一将の霊が静かに立っていた。
 いつもの袴姿のまま、背筋を伸ばし、腕を組んでいる。
 その表情には、一人の祖父としての深い慈しみが滲んでいた。

 将吾の筆が紙の上をゆっくりと滑る音を、まるで懐かしむように耳を傾ける。

『……あれほど無鉄砲で、反抗ばかりしておった小僧が、いまや、家を背負う男の顔をしておるとはな』

 微かに揺れる灯火の光が、一将の姿を淡く照らす……否、照らしているように、感じられるだけだった。
 玲子がふと何かに気づいたように、そちらに顔を向け、一将様の姿を認めると、柔らかな笑みを浮かべた。

『よい娘じゃ……あの子がいてくれたから、将吾は己の芯を見つけたのじゃろう』

 一将は目を細め、玲子の背にやさしく目をやった。

 将吾が封をした手紙を静かに懐に収め、机の上の筆を整えると、ふぅとひとつ、深い息を吐いた。
 その動作に合わせるように、一将はそっと目を細め、ゆるりと頷く。

『もう、わしの出る幕ではないかもしれんな……』

 呟いた声は、柔らかな風のように静かに部屋の空気へ溶けていく。
 けれどその声音には、どこか寂しさよりも満足に近い響きがあった。

『ただ……もう少しだけ。そばで見ておろう。あの子が、自分の選んだ道をまっすぐ歩く姿を、しっかりと』

 灯の揺らめきが、一瞬だけ強く瞬いた。
 
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