明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 将吾がゆっくりと口を開く。

「父上。俺は、玲子を伴侶に迎えたいと思っています」

 部屋に静寂が落ちる。

 将輝は両手を膝に置いたまま、しばし沈黙した。
 やがて、おもむろに口を開いた。

「……お前は、そのために藤堂の名を捨てても構わぬのか?」

 父親である将輝の言葉に将吾の目が鋭く光る。

「はい。それが彼女を守る唯一の道であるならば、構いません」

 短く、強く、迷いのない答えだった。

 将輝はふっと目を細めた。

「お前は変わったな、将吾。昔の、剣と秩序にしか価値を見出さなかった男とは、まるで別人だ」

 玲子がはっと顔を上げる。将輝は、視線を玲子へ戻すと、初めてわずかに口元を緩めた。

「……君の存在が、息子を変えたというのなら、それは誇るべきことだ」

 その一言に、玲子の瞳が潤む。

 将輝は背を正し、凛とした声で言った。

「この縁、いずれ正式に話を通す。……だがその前に、もう一人、話をせねばならぬ相手がいるな」

「玲子の父……榊原隆之殿か」

 将吾が応じると、将輝は深く頷いた。

「家格がどうあれ、娘を嫁に出すのは父の役目。……真摯に願い出るがいい。今の君なら、それができるはずだ」

 将輝の言葉には、明らかな信頼と承認の気配があった。

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