明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子が外出禁止を言い渡されてから、数日が経った。
もともと、無駄に町へ出かけるような性分ではない玲子にとって、それ自体はさほど苦ではなかったが、今日は、事情が違う。
仕立て上げた内職の着物を、松林屋に納品しなければならなかったのだ。
外出の許しをもらうため、玲子は渡り廊下を通り、母屋へと向かう。
裏口の戸を開けたちょうどそのとき、継母の百合絵と鉢合わせた。
玲子の姿を見るなり、百合絵は露骨に鼻白んだような表情を浮かべた。
「あら、何の用?」
玲子は、これまで百合絵から願い事を快く聞き入れられた記憶などなかった。
どうせまた何かと理屈をつけては、突っぱねられるのだろう。そんな諦めに似た気持ちを胸に、玲子は静かに頭を下げた。
「あの……松林屋さんに、仕立て上がった着物をお届けしたく……。外出の許可をいただけますでしょうか」
すると、百合絵は玲子を見下ろしたまま、何かを思いついたように片眉を上げた。
「まぁ、松林屋さんへ?」
「はい」
「……ええ、いいわよ。ただし、庭の掃き掃除を終えてからにしてちょうだい。それと、松林屋のご主人にはよろしくと伝えておいてね」
あまりにすんなりと許可が出たことに、玲子は面食らってしまう。
「あ、はい。かしこまりました」
ぺこりと頭を下げ、引き返していく玲子の背中を見送りながら、百合絵は静かに口角を吊り上げた。