明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
「家事は人並みにこなしております」

「うむ、うむ」

 吉壱は満足げに頷きながら、唐突に立ち上がり、玲子の隣に腰を下ろした。

「気の病を患っていると聞いて、心配しておったのだぞ」

 じりじりと距離を詰めてくる。少女の幽霊の言葉が真実だったのだと、玲子はこの時、確信した。
 継母の百合絵が自分を「花嫁」として売り込んだのだ。

「お気遣いありがとうございます。でも、わたくしは病ではございません。針仕事も滞りなく続けられますので、ご安心くださいませ」

 きっぱりと言い切り、玲子は胸のあたりで手を軽く上げ、これ以上の接近を拒もうとした。

 だが、吉壱は遮るように差し出した玲子の手を掴んだ。

「ほう、よく働く手をしておる。だが、せっかく形の良い手なのに、荒れてしまうのは惜しい。うちへ来れば、何ひとつせずとも、人形のように可愛がってやろう」

 玲子の手を包み込み、ぬめるような手つきで撫で回す。
 ふんすふんすと鼻息が荒く、至近距離で感じる生臭い息が耐えがたい。
 玲子の背筋を、ゾワリとしたおぞ気が這い上がる。
< 46 / 234 >

この作品をシェア

pagetop