明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

  藤堂将吾について、ひとつでも多く知っているのは自分であると胸をはる。マウントの取り合いだ。

「あら、藤堂家は尚文様が継ぐものかと思ってましたわ」

「わたくしも、ある方から尚文様だと伺いましてよ」

「尚文様は、現当主である将輝様の甥ですもの。直系の将吾様が健在でしたなら、当主の芽はないはずよ」

 その時、藤堂将吾へと近づく、ひとりの男を見つけると令嬢たちは声をひそめた。

「噂をすれば……。尚文様だわ」

 20代半ばの尚文は、働き盛りの精悍な気を漂わせていた。
 それでいて、人好きのする柔和な笑みを浮かべ会場の女性を魅了する。
 身長は5尺6寸(約170センチ)といったところ、6尺ある将吾と並ぶと一回り小さく見えるが、まわりの男性に比べ、かなり高い方だ。
その上、日本人にしては、はっきりとした二重で、目鼻立ちの整った顔は藤堂家の血筋なのだろう。

舞香を始めとするご令嬢たちの関心は、将吾と尚文のふたりになる。

「将吾様は士官学校を卒業後、程なくして少尉になられたそうよ」

「将吾様が 、次期当主としての貫禄が、おありなのも頷けるわ」

「尚文様も事業を興されて、好調らしいわよ」

「お仕事が忙しくて、未だに独身でいらっしゃるのよね」

 そうなのだ。嫁ぎ先としては、将吾であっても尚文であっても好物件。この社交の場で、良き出会いを求める令嬢たちから、注目が集まるのも無理はない。
玲子の姉である榊原舞香が、藤堂将吾と尚文の二人を見て、大きなため息をついた。

「はぁ、将吾様でも尚文様でも良いから、ダンスを申し込んで下さらないかしら」

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