明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 そのとき、ザザッと風が吹き、空の雲が流れる。
  暗い雲の切れ間から、月の光が差し込み、ふたつの影がくっきりと浮かび上がった。
 ならず者風の男が匕首を手に、小袖姿の女を脅している。その女の顔が、はっきりと見えた。

「……玲子殿」

 矢も楯もたまらず、将吾は踏み出した。
 軍刀を抜き放ち、電光石火の勢いで男に迫る。
 ザザザッと砂利を踏む音。
 ならず者がハッとして振り返った瞬間、鋭く閃く刃。
  次の瞬間、血しぶきが夜の闇に弧を描いた。

「うわっ──!」

 将吾の一閃が、男の右腕を裂いた。
 堪らず匕首が手を離れ、地面へカランと落ちた。
 反動で、男の手から玲子が放たれる。

「きゃっ!」

 将吾は、玲子を背中へ隠すように男の前にまわり込み、威嚇する。

「観念しろ!」
 
 だが、男は怯むことなく目をギラつかせ、左手で匕首を拾おうと手を伸ばした。

「くそっ……!」

「させるか!」

 将吾は即座に反応し、軍刀を男の太ももめがけて突き立てた。

「ぐあぁああっ!」

 男が絶叫し、口から泡とともに呻きが漏れる。
 返す刃でさらにえぐるように引き抜くと、男の中から黒い霧のような《《悪しきモノ》》がフワリと浮かび、かき消えるように消滅していく。

「ぎゃああああ……!」
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