明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 一将の顔に陰が差す。
 その責任を自分が背負うべきだと、強く感じているのだろう。
 それに気づいた玲子は、ふわりと優しく微笑んだ。

「いいえ。わたくしは、見て見ぬふりなどできませんでした。……だから、これも仕方のないことです」

『……だが、こうして玲子殿が命を狙われてしまっては……』

 悔しそうにうつむく一将に、玲子は首を横に振る。

「あの時、一将様が気付いてくださったおかげで、尚文様や将吾様が助かったのですから。それに、誰かの役に立てたというのは、わたくしも自分が誇らしいです。だから、どうかお気になさらないでください」

『まったく玲子殿には、頭が上がらんな』

 そう言って、一将は柔らかく微笑んだ。

『お礼と言っては足りないが、ゆるりとくつろいでくだされ』

 玲子は改めて周囲に視線を向けた。
 和と洋が調和した瀟洒(しょうしゃ)な部屋。
  一人掛けのソファには白いレースのカバーがかかり、アンティーク調の金具がついた箪笥(たんす)の上には柔らかく灯るランプ。
 そして、ふかふかの寝台のぬくもりが、玲子の疲れた体をやさしく包んでいた。

「……ここは?」

『ふむ、藤堂の家じゃ。孫が連れて来たのだ。安心してゆっくり休むがよい。ここなら安全じゃぞ』

 一将はどこか得意げに胸を張ったが……もちろん、幽霊の彼が玲子を抱き上げて連れて来ることはできない。
 ならず者に襲われて以降の記憶がない玲子にとって、その部分だけが空白のままだった。

「わたくし、どうやってここまで……?」

 玲子が首をかしげると、一将が得意げに笑った。

『そんなの決まっとる。気を失った玲子殿を、将吾が抱き上げて運んで来たのじゃ。腰抜けかと心配したが、なかなかどうして、やりおるわい』

 顎を撫でながら満足げにうなずく一将とは対照的に、玲子は言葉を失った。

(わたくしが……将吾様に……抱き上げられて?)

 心臓が早鐘を打ち、頬が熱くなる。

「わ、わたくし……将吾様にお詫びとお礼を申し上げなければ……!」

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