明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 近すぎる距離に、ますます頬に熱を持つ。
 けれど、男社会の軍で育ち、恋愛に疎い将吾には、その変化に気づく術もなく、自身の心の揺らぎにも無自覚だった。

「顔が赤いな、疲れているのかもしれない。無理はせぬよう」

 そう言って、将吾の手が玲子の頬から離れた。
 その瞬間、頬に残るぬくもりが失われ、玲子は少しだけ寂しさを覚えた。

「お気遣いありがとうございます。あの……将吾様、わたくしの家へ行ってくださったと伺いました。ご迷惑をおかけして……」

「ちょうど、その話をしようと思っていたんだ。榊原男爵から滞在の許可をもらった。それに、あの妙な縁談も取り下げてもらったよ」

 玲子の胸が、ふっと軽くなる。
 あの、松林吉壱との縁談が消えた。
 それだけで、心の底からほっとした。

「将吾様……本当に、ありがとうございます」

 玲子の笑顔は、まっすぐで曇りがなく、見る者の胸を打つ。
 その無垢な笑みに、将吾の心臓がドクンと高鳴った。

──玲子君は可愛いじゃないか──

 尚文が言っていた言葉が、不意に蘇る。
 いや、いま目の前にいる玲子は、確かに可愛い。
 けなげに笑い、自分の境遇を恨まず、懸命に生きようとする姿が、どうしようもなく愛おしい。
 
(……彼女を誰にも触れさせたくない。)

「将吾様?」

 玲子の声に、はっと思考が引き戻される。

「あ、すまない」



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