明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 腕を組み、将吾は低くつぶやいた。

「駆け落ちじゃないとしたら、隆之の横暴に耐えかねて実家に帰ったか……もしくは、さらわれた可能性もあるな」

「ただ、誰かにさらわれたのなら、本来は大騒ぎになるはずなんだよな」

 尚文は机から身を起こし、真剣な表情で続けた。

「それが“駆け落ち”という話で片付けられてる。それも不自然だ」

「実家の方も調べてみるか……」

 たとえ事情があって別れたとしても、母であるなら、娘の顔を一度は見たいと思うはずだ。
 玲子だって、きっと本心では母に会いたいに違いない。
 だが、すでに十五年以上の時が流れている。生きていたとしても、もう別の家庭を築いているかもしれない。

「生きていて、再会が叶うなら……玲子君に、母君(ははぎみ)との時間を与えてあげたいな」

 言葉を交わし、互いにうなずき合う将吾と尚文。
 そして話題を切り替えるように、将吾は一つ咳払いをして言った。

「それと……俺の方でも、例のパーティーの日に、会場で給仕をしていた従業員を洗ってみた」

「将吾に毒を盛ろうとした、あの給仕の消息がわかったのか?」

「残念ながら……例の給仕、翌日に川で溺死体となって見つかった」

 尚文の表情が険しくなる。

「口封じ、か」

「そう考えるのが妥当だな。だが、この給仕の男の素性を更に調べてみたんだ」

「それで、何か掴めたのか?」

「ああ、……以前、俺たちの叔父である藤堂輝明のところで、書生をしていたそうだ」


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