追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ～なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが？～
26. 男同士の話
「あっ……あわわ……」
ゼノヴィアスは目を白黒させて狼狽した。
魔王として五百年。頂点として君臨し続けた世界最強の男がここまで慌てたことはなかった。
武闘派の魔王が、泣く女性の扱いなど知るはずもない。
「ちょ、ちょっと、シャーロット！ 泣くな！ な？」
オロオロしながら、慌ててエドワードから足をどけた。
「ほら、ほら！ もう踏んでない！ 踏んでないから！」
まるで、泣く子をあやす父親のような狼狽ぶり。
「ゲホッ、ゲホッ……」
エドワードは咳き込みながらよろよろと立ち上がった。
「き、貴様……この俺を、足蹴にしやがって……」
ゼノヴィアスを睨みつけるが、その目には明らかな恐怖が宿っていた。一声で兵士たちを威圧する。そんなことができる奴は世界にそうはいないのだ。ここで対応を誤れば自分の命どころか王国の存亡にかかわる。
足はガクガクと震え、今にも腰を抜かしそうだった。
◇
泣き止まないシャーロット――――。
ゼノヴィアスはシャーロットを見て、エドワードを見て、そして――ニカッと笑った。
まるで、良いことを思いついた悪ガキのように。
「分かった！ そうだ！」
急に明るい声を出す。
「男同士の話をしようじゃないか、王子君！」
そして、ガシッとエドワードの首を腕で抱え込んだ。
完璧なヘッドロック――。
「え？ ちょ、待っ……」
「外で話そう！ な？ 男同士、腹を割って！」
有無を言わさず、エドワードを引きずっていく。
「や、止めろ！ ど、どこへ連れて行く！？」
「いいから、いいから！」
にこやかな顔で、しかし恐ろしい力で。
「痛い！ 痛いって！ 首が！ 首が折れる！」
エドワードの悲鳴も虚しく、二人は店の外へと消えていった。
残されたシャーロットとルカ、そして兵士たちは、呆然とその光景を見送るしかなかった。
◇
カフェの外、月明かりの下。
ゼノヴィアスは、ヘッドロックで捕らえたエドワードを適当な路地裏に引きずり込んだ。
「さて、王子君」
エドワードを解放すると、ゆっくりとフードに手をかけた。
「大人の話をしよう」
そして――――。
バサッと、フードが取り払われた。
月光に照らされたのは、この世のものとは思えない美貌。艶やかな黒髪が夜風に舞い、まるで生きているかのように形を整えていく。
だが、エドワードの目を釘付けにしたのは――――。
額から生えた、二本の漆黒の角。
禍々しく、そして美しい。まるで黒曜石を削り出したような、完璧な造形。
「お、お前は！？」
エドワードの顔から、一瞬で血の気が引いた。
膝が震える。歯がガチガチと音を立てる。
この角は魔族の証。それも、ただの魔族ではない。数百年、いや、それ以上を生きた高位の魔族――――。
「言わずとも、俺が誰かは分かるな？」
ゼノヴィアスの深紅の瞳が、ギラリと不気味に光った。
その瞬間、エドワードの脳裏に浮かんだのは、幼い頃から聞かされてきた伝説。
――五百年前、世界を恐怖に陥れた最強の魔王。
――その名は、ゼノヴィアス。絶対に関わるな。
恐怖に駆られ、エドワードは後ずさる。だが、背中が壁にぶつかり、もう逃げ場はない。
「わ、わわわわ、分かります！」
エドワードは必死に頷いた。額から滝のような汗が流れ、豪華な衣装を濡らしていく。
ゼノヴィアスは一歩、また一歩と近づいた。
「良い返事だ」
ゼノヴィアスは満足そうに微笑む。だが、その笑みは捕食者のそれだった。
「では、はっきり言っておこう」
グイッと顔を近づける。
「シャーロットは……、俺のものだ」
低い声が、まるで呪いのようにエドワードの耳に響く。
「俺のものに手を出す……それは即ち、魔界への宣戦布告に等しい」
ゼノヴィアスの瞳が、さらに深い紅に染まった。
「分かるか？」
「わ、わわわわ、分かります！」
エドワードは何度も何度も頷いた。もはや王子としてのプライドなど、欠片も残っていない。
「本当に分かっているのか？」
ゼノヴィアスは疑わしそうに眉をひそめた。
「大丈夫です！！ 分かっております！！」
エドワードは必死に叫ぶ。
「ふむ……。お前がもし……」
一瞬の間。
「シャーロットを泣かすようなことがあれば……」
空気が凍った。
「たった一粒でも、涙で頬を濡らすことがあれば……」
ゼノヴィアスの全身から、どす黒いオーラが立ち上り始めた。
「その時が、王都が業火に沈む時だ」
にぃっと、口元が歪む。
「我が百万の軍勢が、一気にお前らを蹂躙し尽くすだろう！」
その言葉に、エドワードは想像してしまった。
燃え盛る王都。逃げ惑う民。降り注ぐ魔法の雨。そして、玉座で高笑いする魔王の姿――――。
ゼノヴィアスは目を白黒させて狼狽した。
魔王として五百年。頂点として君臨し続けた世界最強の男がここまで慌てたことはなかった。
武闘派の魔王が、泣く女性の扱いなど知るはずもない。
「ちょ、ちょっと、シャーロット！ 泣くな！ な？」
オロオロしながら、慌ててエドワードから足をどけた。
「ほら、ほら！ もう踏んでない！ 踏んでないから！」
まるで、泣く子をあやす父親のような狼狽ぶり。
「ゲホッ、ゲホッ……」
エドワードは咳き込みながらよろよろと立ち上がった。
「き、貴様……この俺を、足蹴にしやがって……」
ゼノヴィアスを睨みつけるが、その目には明らかな恐怖が宿っていた。一声で兵士たちを威圧する。そんなことができる奴は世界にそうはいないのだ。ここで対応を誤れば自分の命どころか王国の存亡にかかわる。
足はガクガクと震え、今にも腰を抜かしそうだった。
◇
泣き止まないシャーロット――――。
ゼノヴィアスはシャーロットを見て、エドワードを見て、そして――ニカッと笑った。
まるで、良いことを思いついた悪ガキのように。
「分かった！ そうだ！」
急に明るい声を出す。
「男同士の話をしようじゃないか、王子君！」
そして、ガシッとエドワードの首を腕で抱え込んだ。
完璧なヘッドロック――。
「え？ ちょ、待っ……」
「外で話そう！ な？ 男同士、腹を割って！」
有無を言わさず、エドワードを引きずっていく。
「や、止めろ！ ど、どこへ連れて行く！？」
「いいから、いいから！」
にこやかな顔で、しかし恐ろしい力で。
「痛い！ 痛いって！ 首が！ 首が折れる！」
エドワードの悲鳴も虚しく、二人は店の外へと消えていった。
残されたシャーロットとルカ、そして兵士たちは、呆然とその光景を見送るしかなかった。
◇
カフェの外、月明かりの下。
ゼノヴィアスは、ヘッドロックで捕らえたエドワードを適当な路地裏に引きずり込んだ。
「さて、王子君」
エドワードを解放すると、ゆっくりとフードに手をかけた。
「大人の話をしよう」
そして――――。
バサッと、フードが取り払われた。
月光に照らされたのは、この世のものとは思えない美貌。艶やかな黒髪が夜風に舞い、まるで生きているかのように形を整えていく。
だが、エドワードの目を釘付けにしたのは――――。
額から生えた、二本の漆黒の角。
禍々しく、そして美しい。まるで黒曜石を削り出したような、完璧な造形。
「お、お前は！？」
エドワードの顔から、一瞬で血の気が引いた。
膝が震える。歯がガチガチと音を立てる。
この角は魔族の証。それも、ただの魔族ではない。数百年、いや、それ以上を生きた高位の魔族――――。
「言わずとも、俺が誰かは分かるな？」
ゼノヴィアスの深紅の瞳が、ギラリと不気味に光った。
その瞬間、エドワードの脳裏に浮かんだのは、幼い頃から聞かされてきた伝説。
――五百年前、世界を恐怖に陥れた最強の魔王。
――その名は、ゼノヴィアス。絶対に関わるな。
恐怖に駆られ、エドワードは後ずさる。だが、背中が壁にぶつかり、もう逃げ場はない。
「わ、わわわわ、分かります！」
エドワードは必死に頷いた。額から滝のような汗が流れ、豪華な衣装を濡らしていく。
ゼノヴィアスは一歩、また一歩と近づいた。
「良い返事だ」
ゼノヴィアスは満足そうに微笑む。だが、その笑みは捕食者のそれだった。
「では、はっきり言っておこう」
グイッと顔を近づける。
「シャーロットは……、俺のものだ」
低い声が、まるで呪いのようにエドワードの耳に響く。
「俺のものに手を出す……それは即ち、魔界への宣戦布告に等しい」
ゼノヴィアスの瞳が、さらに深い紅に染まった。
「分かるか？」
「わ、わわわわ、分かります！」
エドワードは何度も何度も頷いた。もはや王子としてのプライドなど、欠片も残っていない。
「本当に分かっているのか？」
ゼノヴィアスは疑わしそうに眉をひそめた。
「大丈夫です！！ 分かっております！！」
エドワードは必死に叫ぶ。
「ふむ……。お前がもし……」
一瞬の間。
「シャーロットを泣かすようなことがあれば……」
空気が凍った。
「たった一粒でも、涙で頬を濡らすことがあれば……」
ゼノヴィアスの全身から、どす黒いオーラが立ち上り始めた。
「その時が、王都が業火に沈む時だ」
にぃっと、口元が歪む。
「我が百万の軍勢が、一気にお前らを蹂躙し尽くすだろう！」
その言葉に、エドワードは想像してしまった。
燃え盛る王都。逃げ惑う民。降り注ぐ魔法の雨。そして、玉座で高笑いする魔王の姿――――。
