学園天国!!ホクロ様!!

限界の朝

昇降口に足を踏み入れた瞬間、違和感が走った。
――上履きが、ない。

ロッカーの奥を何度も覗きこむ。
どこにも、ない。
頭の中が一瞬で真っ白になった。

「……なんで」

とりあえず来客用スリッパを履いて、俯いたまま教室へ。
足音が、コツ、コツ、と不自然に響く。
みんなの視線が足元に落ちてくるのがわかる。




教室に入ると、誰もいないはずの自分の席の上に、
“それ”があった。

ピンクの上履き。
つま先が少し汚れて、まるで「拾われたばかり」のように置かれていた。

息を呑んだ瞬間、後ろから声がかかった。

「イナ、お前……嫌がらせされてね?」

振り向くと、松岡が神妙な顔で立っていた。

「……なんで?」

「この上履きな、朝みんなで探したんだよ。
 飯田が“イナの靴がない!”って騒いでさ。
 男子で協力して探したら……教室のゴミ箱にあった。」

「……ゴミ箱、に?」

喉の奥がカラカラに乾く。

「飯田くん、ありがとう。
 ほんと、助かったよ。
……ん?気づくって、どういう――」

そのとき、松岡が気まずそうに目をそらした。

「……あー、その。
 毎朝、イナの靴……拝んでから教室来てたらしい。
今朝も拝もうとしたらなかったらしい」

「…………は?」

時間が止まったみたいだった。
何も考えられなかった。
頭の中に「拝む」という単語だけがぐるぐる回る。

どくん、どくん、と心臓が痛い。
笑えばいいのか、泣けばいいのか、わからなかった。

――ああ、もう、限界かもしれない。



机の上の上履きが、
ただの布とゴムのかたまりじゃなくて、
“呪い”のように見えた。
< 22 / 28 >

この作品をシェア

pagetop