キャスティング・ラブ―運命の配役から始まる恋。

ep8

撮影が終わった後の楽屋。
聖人がニヤニヤと笑いながら要の肩を叩いた。

「期待の新人、かなめ。すげぇじゃん、かなめ。」

照れくさそうに俯く要。
「……先生のおかげだよ。」

「お!まなみ先生か!」とタカシが声を弾ませる。

「うん。まなみ先生、本当にすごいんだよ。先生のアドバイスを聞いたら、演技のコツを掴めたんだ。」
要の表情は誇らしげで、自然と笑みが浮かんでいた。

聖人が腕を組み、茶化すように言った。
「珍しいな。かなめが女の人に懐くなんて。女性は苦手だったんじゃなかったのか?」

「先生は女性とかじゃなくて、人として尊敬してるんだよ。俺のことを唯一認めてくれた人だから。」

その真剣な答えに、タカシが声を上げて笑った。
「なんだよ。かなめ、先生のこと好きなのか?」

「は?そんなんじゃねぇし。」
要は顔を赤くしながら、慌てて否定する。

「素直じゃない奴だなぁ。だって先生、綺麗じゃん。」

「は?」

「先生、モテるからさ。他の人に取られちゃうぞ?」

「……え?そうなのか?」
要が動揺を隠せずに呟く。

タカシはすかさずニヤリと笑った。
「やっぱり気になってんじゃん。みんな、かなめに好きな人できたって騒いでるぜ。」

「は!ちげぇし。タカシ、声でかいって!」
要が慌てて小声で制する。その姿に、二人は楽しそうに笑った。

――そのやり取りを、楽屋の外からひっそりと盗み聞きしている男がいた。
要のマネージャーである。彼はすぐにスマホを耳に当てる。

「しゃ、社長。」

電話の向こうから落ち着いた女性の声が響いた。
「かなめのドラマ、順調みたいね。」

「おかげさまで……」

「せっかくかなめのことをクビにできそうだと思ったのに、残念ね。」

「す、すみません……」
マネージャーは額に汗を浮かべ、言葉を詰まらせる。

だが社長の口調は、むしろ楽しげですらあった。
「いいわ。計画変更よ。かなめを売り出しましょう。」

「え?」

「芸能界というのは、突然やってきたチャンスを掴めた人間が成功する場所。かなめには、その運があったの。これからは聖人に来た仕事を、全部かなめに回してちょうだい。タカシに次ぐ二番手として、売り出していくわよ。分かったわね?」

「は、はい……わ、わかりました……」

「では、検討を祈るわ。」

ぷつりと通話が切れる。

マネージャーはしばらく呆然と立ち尽くし――やがて、悔しそうに顔を歪めた。
「……クソッ……!」

手に持っていた資料を力任せに握りつぶし、紙がぐしゃぐしゃに音を立てた。

楽屋から漏れる笑い声と、マネージャーの暗い影が、鮮やかな対比を作っていた。
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