転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「前世での私は、魔法がない世界にいるごく普通の女性でした。
 平和な国に生まれ、平凡ながら幸せに暮らしていました。
 なのに……婚約者を寝取られた挙句、寝取った女に殺されてしまったのです」

 前世の私は、美人でもないが不細工でもなく、読書と料理が趣味のどちらかといえば地味な日本人女性だった。
 婚約者のことを真剣に愛していた私は呆然自失となっている間に、あっさりと殺されてしまったのだ。

 あの絶望も悲しみも恐怖も痛みも、全てしっかり覚えている。
 生まれ変わった今でも、新たな恋愛なんてしたいとは思えないくらいに。

「そんな記憶がありますので、私はもう恋愛はこりごりです。
 男性も、男性に媚びを売る女性も苦手で、できるだけ近寄りたくないのですわ」

「……その話が本当なら、そうなるのも仕方がないことでしょう」

 こんな荒唐無稽な話も、頭ごなしに否定せず理解する姿勢を示してくれる。
 やはり、彼は優しく思慮深いひとなのだ。

 それが伝わってくるから、前世の記憶のおかげで初対面の男性にはいつも身構えてしまう私でも、彼に対しては自然に接することができている。

「とはいえ、私の話だけでは信じられないでしょう。
 一度、我が家にお越しいただけませんか?
 私に前世の記憶があるということが納得していただけるようなものをお見せしますから。
 その上で判断していただいても構いません」

「そのようなものがあるなら、是非とも見せていただきたいですね。
 どちらにしろ、ここで即断できるような話でもありません。
 一度持ち帰って、じっくり検討してみます」

「ええ、前向きに検討してくださるとありがたいですわ」

「そうするつもりですよ」

 ちょうど話がだいたいまとまったところで、複数人の足音と話し声がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
 さりげなく扉と私の間に彼が立ったところで、外から鍵がかけられていた扉がノックもされずに勢いよく開かれた。

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