だから愛は嫌だ~虐げられた令嬢が訳あり英雄王子と偽装婚約して幸せになるまで~

23 怖ろしい愛

 一通り泣いたあと、ディアナと母は顔を見合わせてクスッと笑った。

(あっそういえば、お部屋に飾るお花のことを、お母様に相談しに来たんだったわ)

 本当はロバートが降らせた黒い花びらの意味を知りたかったのだが、流れでそうなってしまっていた。

 聞かないで帰ると、扉の前で待機しているカーラに不審がられてしまうかもしれない。

「あの、お母様。お部屋に飾るお花のことで、ご相談したいのですが……」
「あら? 珍しいわね」

 今まで相談したことのない内容に、母が首をかしげている。

「少し気分転換がしたくて」

 ディアナがそう言い訳をすると、「いろいろあったものね」と母は納得してくれた。

「あなたの部屋に飾るのでしょう? だったら、好きな花を飾ればいいわ。エントランスホールや客室の花には、種類や色、本数までこだわらなければいけないけど」
「そうなのですか?」
「貴族の中には、花言葉を気にする人もいるからね」
「花言葉……」

 ディアナも友達に花を贈るときは、花の持つ意味を調べて、失礼のないようにしている。

(もしかして、幻覚の花びらにも、花言葉が関係しているとか?)

 急に静かになったディアナに、母は優しく微笑みかけた。

「そこまで深刻に悩む必要はないわ。困ったときはいろんな種類の花を少しずつ混ぜて花束にしてしまえばいいのよ。そうしたら、細かいことを気にする必要はないからね」
「ありがとうございます」

 ソファーから立ち上がったディアナは、母に別れを告げて書斎に向かう。

 ズラリと本が並ぶ棚から、花言葉の本を取り出し、書斎机に腰を下ろした。

(ピンクやオレンジ、赤や黒色がある花は……)

 ピンクやオレンジ、赤の花はたくさんあるが黒い花は数が少ない。

(黒百合、ブラックチューリップは、どちらも花びらの形が違うわ。それに、赤色が『愛している』という意味なら、やっぱりバラかしら?)

 パラパラと本をめくり、バラのページにたどり着く。

(あったわ。えっと……)

 赤色のバラの花言葉は、『愛情』『あなたを愛しています』『情熱』など。

(これは合っているわね。次はライオネル殿下から降ってきた、ピンク色の花びらの意味を調べましょう)

 ピンク色のバラの花言葉は、『感謝』や『感銘』だった。

(他には、『可愛い人』や『美しい少女』なんて花言葉もあるのね。そういえば、ライオネル殿下の蝶に『可愛い』と言われたことがあったわ。あれって、もしかして、そういう意味だったの!?)

 ディアナの頬が熱くなっていく。しかし、すぐに「今はそれどころじゃないわ」と首を振った。

(オレンジ色のバラの花言葉は、『絆』『信頼』……他には『あなたの魅力に目を奪われる』)

 顔を真っ赤にしながらディアナは「きっと、信頼って意味だわ」と自分に言い聞かせる。

(じゃあ、ロバート様から降ってきた黒い花びらの意味は……)

 一番上に、『憎しみ、恨み』という言葉が出てきて、ディアナは「やっぱりね」と思った。

(あら? 黒いバラには『永遠の愛』という意味もあるの? これはさすがにないわね。他には……)

 ディアナの心臓が、ある言葉を見つけてドクンと跳ねた。

『あくまであなたは私のもの』

 この言葉が、ロバートとディアナの関係を表すのに妙にしっくりくる。

 しかも、自分のものだから大切にしようとするのではなく、自分のものだからどう扱ってもいいだろうという乱暴さが含まれているようにディアナは感じた。

(こんなに恐ろしい感情も愛と呼ぶのかしら? 恨まれ乱暴に扱われながら愛されているだなんて、ゾッとするわ)

 ロバートと穏便に婚約解消できたことを、ディアナは心の底から喜び、そして、協力してくれたライオネルに改めて深く感謝した。




 ***

【ご連絡】
 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 他作品の商業化作業のため、この作品の更新がしばらくとまってしまいます。
 大変申し訳ありません( ;∀;)!
 11月末までには更新再開できると思うので、気長にお付き合いいただけると幸いです。

 完結は絶対にするので、ご安心ください♪
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