哀しみのオレンジ
EPISODE6 快楽沼
真美と知沙に付いていく幸人。歩いている途中での会話は一切なく、歩き続けていると見たこともないような建物。どこかピンク色だ…建物に入るや否や
「ようこそ…」
「知沙さん…」
「黙って…」
ここでもまだ口を利いてくれない。真美の方を見た感じ彼女も初めてのようだ。目の前にいるのはバスローブ姿の3人の女性。30代から50代までの年齢で、おそらく真美や知沙と同様に雇われている存在だろう。だが
「まさか僕を快楽拷問にかけようと思ったんですか…?」
「…!?」
知沙と真美以外の女性は彼を必死で誘惑するが一切動じる気配がないどころか、眉一つ動かしていない。
「あなたたちは風俗店もやっているんですか?ですがここ…僕たちに許可得てないですよね?立派な風営法違反です…」
冷静に言い放つ彼にイライラを募らせる知沙は
「どの口が言うのよ…あなたは警察のくせに何人も殺しているじゃない!?」
彼が見る先は一人の男性が女性3人によって奉仕されている姿。しかしやりすぎているのか男性は白目を剥いて満身創痍状態。
「もしかしてここは、快楽拷問のための場所なんじゃないですか…?」
「ぬ…!?」
快楽拷問にかけられた人間は殺されはしないものの、生理的欲求である性欲を利用した苛烈な拷問を受けるということは、男性にとって幸せどころか死ぬよりキツいことだ。それにもう一度被害男性を見るとどこか見覚えのある人物だった。
「ですが警察をペテンにかけるとは驚きですよ…」
「クッ…!」
警察…そうだ。彼の目に映る被害男性は彼と同じ職場、葉琉州警察署捜査二課に所属する谷口警部である。数ヶ月前に挨拶していた。
「どうせあの男はもう持たないわ…目が覚めたら私たちのことを諦める」
知沙は彼をここに連れて快楽拷問にかけろと命令されたのだろうが、予想通り…いや予想以上に動じなかったため計画は失敗。彼も男性なので反応していないわけではないが、今の自分にとって愛しているのは知沙だけ。他の女性もバスローブを脱ごうとする手を止める。しかし真美だけは…
「幸人…」
呼び止めた彼女は一人だけバスローブを脱ごうとするが、やはり彼は止めた。
「女性は簡単に脱ぐもんじゃない…」
そう優しく囁くと彼の足は外へ向かって歩き出していた。風営法どうのこうの以前に、この場は見逃すようだ。初めて会ったときから幸人が好きな真美にとって虚しさしかないが、去り行く彼を追っているのは知沙だけだった。
「待ちなさい幸人君…!」
その後、真美はアパートに帰ってシャワーを浴びていた。ただシャワーを浴びているだけなのにシャワーをいつまでも性器に当て続ける。当て続けて気持ち良い理由は確かにあるが、一番の理由はもしかしたら幸人とできるかもしれないと思っていたため、それが叶わなかったという虚しさを埋めている。
「はぁ〜…?(幸人ってあんな女っ気がないなんて…)」
実は彼女、結婚するまで誰とも交際することはなく結婚後も性行為を経験したことがなかった。それよりも幸人は一体何者なんだろうか?バケモノみたいな強さにあのポーカーフェイス。それ以前に彼がマフィアを殴り殺している姿をリアルタイムで見ていたからこそ、お互いがもう人殺し…皆戻れないところまで来てしまっている…今更足を洗って全うに表社会で生活などできるのだろうか?でもそんなことを考えている余裕はない。22歳という早い段階で結婚してこのまま子供にも恵まれるという理想を描いていたのに、結婚した男がどうしようもない奴…私が暴力を振るわれてなければ人を殺す必要などなかったけど、後悔しているつもりはない…世の中には自分と同じ悩みを抱えている人は沢山いる。知沙さんだってそうだ…彼女は服を着るのも忘れて横たわる。
ピンポーン!
「真美!」
「えっ嘘!?」
全裸なのに!でも早く開けなかったら怒られそう…もう仕方ない!彼女はバスタオルを巻いてドアを開ける。
「はい…?」
「お風呂入り立てかしら?」
髪は完全に乾いているがここは上がり立てにしておこう…彼女は明美を招き入れ
「ビールしかないですけど、飲みますか?」
「いただこうかしら。その前に服着なよ?」
「あぁ〜…すいません」
「服着たら飲みましょ」
「すいません。じゃあこれ…」
プシャッ
「邪魔してごめんね。それより、幸人君とはできなかった?」
「えっ…(急に聞いてきた…?)」
「旦那より先に幸人君が初体験になった?ねぇどうなの?」
「実は、全然見向きもしてくれなかったんですよ…」
彼女はビールを飲みながら明美の表情を覗っている。しばらく知沙を見ていた彼女にとって奥野明美も一人の母親であるように見える。母親?前幸人の家から拝借したジャンパーを見て「懐かしい感じ」と言っていたから幸人の知っている友達の母親だろうか?
「あれは何の目的でやってるんですか?知沙さんが快楽沼って言ってましたけど…」
まだ性行為を経験していなかった彼女まで使わされたんだ。それだけの理由があるに違いない。
「快楽沼は私たちに介入して真実を知りすぎた…もしくは知ろうとする男が辿り着く聖地よ」
「聖地?」
「直接罪を犯した男相手じゃないから殺しの対象にはならない。結果的には私たちに抗う力を奪う、嫌でもされ続けた男は去勢されたように脱力するの」
「じゃあ幸人もそうなるはずだった…?」
「だと思ったけど無理だったみたいね…それにあの子は厄介に知沙のことが好きだし…諦めないかもね…けど、私もお母さんに会わせたい気持ちもあるから諦めないでほしいとも考えてる…」
「お母さん…!?」
今ハッキリと幸人にはお母さんと会ってほしいと言った。でも彼女はまだその母親に会ったことはない。顔を見たことがないならあまり明美の前にも現れない存在だろうか?
「あの子があそこまで人を殺せるようになったのは私の責任でもあるの…私はあの子のお母さんを利用した、最低な女だから…」
幸人の母親がいるかもしれないのならここまで自分に接触し、知沙と愛を深め合っている理由も頷ける。
「これから幸人君がどう動くかわからないけど、敵はもう一ついるわ…」
「敵ですか?」
「真美、この前海外マフィアとやらに襲われたでしょ?」
「はい。幸人の家を飛び出したときに」
「それがここ最近勢力を拡大してる。けど海外マフィアといえ私たちに固執して襲う理由を考えてたの…おそらくお互い因縁の関係かもしれないわ」
マフィアが真美を狙う理由は確かに臓器や身体そのものを売る目的、つまり金目当ての理由は一つある。実際彼女たちに殺された卓郎は珠水鳳凰の傘下にあたるマフィアに金を借りると同時、その返せなくなった借金を返す条件としてヤクを売り捌くなどの犯罪を犯していた。彼女は全く知らなかった事実だが、DVクズ男だけじゃなく正真正銘の犯罪者が旦那だったのだ。そう考えると犯罪者を「拷問」によって殺しただけになるが、自分なりの正義は貫いたつもりだ。
「幸人君が敵になるか味方になるかは私にはわからない…けど、あの子を愛したいならそれは自由だし、そのときは私より幸人君を優先しな?」
とはいっても幸人には知沙がいる…それに明美が言う言葉には何か裏なのか子供を想うような意志が感じられる。彼女は少し間を置いてからビールを飲み干した。
数時間後
ゴクゴク…
「はぁ~…」
「ぷはぁ~…!」
幸人と知沙は少し離れたホテルに辿り着き、彼女は全く飲めなかったお酒を珍しく何杯か飲んでいた。彼がかなり酒豪で余裕な様子だが彼女の方はダウンしそうだ。飲んでいるお酒は缶ビールの他アルコール13%程度のボトルワイン。2人で注いで飲む。
「ふぅ〜…お酒なんて何年ぶりかしら…?うぅ気持ち悪い…」
「無理しちゃダメですよ?」
バスローブを着た彼女は酔った勢いで脚を大股に開いてゲラゲラと笑う。まるで息子殺しの業を背負った女性とは思えない。
「幸人君…カモンッ…!」
「はい…」
ガシッ…ドンッ…!
「キャッ…!」
勢い良く彼の腕を引っ張った弾みでベットから落下。彼が腕を入れたためダイレクトに落下することは免れたが、彼女の口からかなり酒臭い息が出る。
「床硬いですよ…よいしょ…」
お姫様抱っこでベットに寝かせる。すると彼女は酔っているときにしか話せないと思ったのか、自分の過去の話をうまく回らない舌で語り始める。
「ねぇ幸人君…この前私が言ったこと覚えてるぅ…?」
「この前ですか?確か、えぇっと…」
「私が幸人君のお母さんになるって話だよぉ〜」
2回目のデートのときに言っていたな。彼女のことはお母さんより婚約者、とは言わなくてもいつまでも恋人でいたい気持ちだ。彼は大の年上好きなため12歳上の知沙は本当に好きなタイプだ。近くで見ても遠くで見ても、2000年代に大人気を博したあのアイドルに似ている。息子さんはこんな綺麗なお母さんに殺されてしまったのか…いや僕は何を考えているんだ?
「私の手からあの子の頬の感触が離れないの…何で私…暴走しちゃったんだろう…?誰に聞いてもわからない…」
もしかしたら彼女には2人の自分が存在しているのか?今見せている姿は優しくて、天使の顔の高橋知沙。逆に一度リミッターが外れると冷徹で無慈悲になる悪魔の顔の高橋知沙。実際彼女は優しくて息子想いの母親として有名だった。彼女の育った環境こそわからないが、悪魔の顔を持つ性質は生来のものなのかもしれない。
「あの子は私に一切抵抗しなかった…ずっとママ…やめてってだけ…アァ…!」
ゴクゴクゴクゴク…!
何とワインをボトルごと持ってラッパ飲み!案の定口に含んだワインを飲み切れず口からこぼれ落ちる。ベットの敷布団はワインで染みができる。
「ハッハッハッハ…!もう飲めなぃ~…!」
彼女の手からボトルが離れる寸前で掴むと
ゴクゴク…
彼女は相当な量飲んだのか残っていたワインはコップ1杯分。
「カァ〜…カァ〜…」
まさか油断するといびきをかいて寝てしまうほどオープンなのか…その姿を見てつい我慢できなくなり、彼女に跨るように乗ると
ガシッ…
「…!」
「つ〜かまえた!」
にしてもキスするだけで酒の匂いしかしない…たまにはこういうのもいいだろう。
「決めたわ!私、幸人君のお母さんになる!」
「お母さんに…」
「でも忘れないで!私たちは愛し合う仲だから…」
「ほ…本当ですか?」
「うん!だからもっとこっち来て唇ちょうだい!」
チュッ…!
「知沙さんがお母さんなら僕は息子ですか?でも同じように殺そうなんて考えないでくださいね?」
「あったり前じゃん!今日からあなたのママは私よ!」
彼女の酔い潰れる目は女性らしく可愛らしいが、母のような優しい目も見える。同時に息子を殺してしまった罪悪感、そして今母親代わりになる決意が感じられる。このまま母親に会えなくてもいいと思っていた。何故なら、知沙という母親代わりで愛する人が傍にいるのだから。
「ようこそ…」
「知沙さん…」
「黙って…」
ここでもまだ口を利いてくれない。真美の方を見た感じ彼女も初めてのようだ。目の前にいるのはバスローブ姿の3人の女性。30代から50代までの年齢で、おそらく真美や知沙と同様に雇われている存在だろう。だが
「まさか僕を快楽拷問にかけようと思ったんですか…?」
「…!?」
知沙と真美以外の女性は彼を必死で誘惑するが一切動じる気配がないどころか、眉一つ動かしていない。
「あなたたちは風俗店もやっているんですか?ですがここ…僕たちに許可得てないですよね?立派な風営法違反です…」
冷静に言い放つ彼にイライラを募らせる知沙は
「どの口が言うのよ…あなたは警察のくせに何人も殺しているじゃない!?」
彼が見る先は一人の男性が女性3人によって奉仕されている姿。しかしやりすぎているのか男性は白目を剥いて満身創痍状態。
「もしかしてここは、快楽拷問のための場所なんじゃないですか…?」
「ぬ…!?」
快楽拷問にかけられた人間は殺されはしないものの、生理的欲求である性欲を利用した苛烈な拷問を受けるということは、男性にとって幸せどころか死ぬよりキツいことだ。それにもう一度被害男性を見るとどこか見覚えのある人物だった。
「ですが警察をペテンにかけるとは驚きですよ…」
「クッ…!」
警察…そうだ。彼の目に映る被害男性は彼と同じ職場、葉琉州警察署捜査二課に所属する谷口警部である。数ヶ月前に挨拶していた。
「どうせあの男はもう持たないわ…目が覚めたら私たちのことを諦める」
知沙は彼をここに連れて快楽拷問にかけろと命令されたのだろうが、予想通り…いや予想以上に動じなかったため計画は失敗。彼も男性なので反応していないわけではないが、今の自分にとって愛しているのは知沙だけ。他の女性もバスローブを脱ごうとする手を止める。しかし真美だけは…
「幸人…」
呼び止めた彼女は一人だけバスローブを脱ごうとするが、やはり彼は止めた。
「女性は簡単に脱ぐもんじゃない…」
そう優しく囁くと彼の足は外へ向かって歩き出していた。風営法どうのこうの以前に、この場は見逃すようだ。初めて会ったときから幸人が好きな真美にとって虚しさしかないが、去り行く彼を追っているのは知沙だけだった。
「待ちなさい幸人君…!」
その後、真美はアパートに帰ってシャワーを浴びていた。ただシャワーを浴びているだけなのにシャワーをいつまでも性器に当て続ける。当て続けて気持ち良い理由は確かにあるが、一番の理由はもしかしたら幸人とできるかもしれないと思っていたため、それが叶わなかったという虚しさを埋めている。
「はぁ〜…?(幸人ってあんな女っ気がないなんて…)」
実は彼女、結婚するまで誰とも交際することはなく結婚後も性行為を経験したことがなかった。それよりも幸人は一体何者なんだろうか?バケモノみたいな強さにあのポーカーフェイス。それ以前に彼がマフィアを殴り殺している姿をリアルタイムで見ていたからこそ、お互いがもう人殺し…皆戻れないところまで来てしまっている…今更足を洗って全うに表社会で生活などできるのだろうか?でもそんなことを考えている余裕はない。22歳という早い段階で結婚してこのまま子供にも恵まれるという理想を描いていたのに、結婚した男がどうしようもない奴…私が暴力を振るわれてなければ人を殺す必要などなかったけど、後悔しているつもりはない…世の中には自分と同じ悩みを抱えている人は沢山いる。知沙さんだってそうだ…彼女は服を着るのも忘れて横たわる。
ピンポーン!
「真美!」
「えっ嘘!?」
全裸なのに!でも早く開けなかったら怒られそう…もう仕方ない!彼女はバスタオルを巻いてドアを開ける。
「はい…?」
「お風呂入り立てかしら?」
髪は完全に乾いているがここは上がり立てにしておこう…彼女は明美を招き入れ
「ビールしかないですけど、飲みますか?」
「いただこうかしら。その前に服着なよ?」
「あぁ〜…すいません」
「服着たら飲みましょ」
「すいません。じゃあこれ…」
プシャッ
「邪魔してごめんね。それより、幸人君とはできなかった?」
「えっ…(急に聞いてきた…?)」
「旦那より先に幸人君が初体験になった?ねぇどうなの?」
「実は、全然見向きもしてくれなかったんですよ…」
彼女はビールを飲みながら明美の表情を覗っている。しばらく知沙を見ていた彼女にとって奥野明美も一人の母親であるように見える。母親?前幸人の家から拝借したジャンパーを見て「懐かしい感じ」と言っていたから幸人の知っている友達の母親だろうか?
「あれは何の目的でやってるんですか?知沙さんが快楽沼って言ってましたけど…」
まだ性行為を経験していなかった彼女まで使わされたんだ。それだけの理由があるに違いない。
「快楽沼は私たちに介入して真実を知りすぎた…もしくは知ろうとする男が辿り着く聖地よ」
「聖地?」
「直接罪を犯した男相手じゃないから殺しの対象にはならない。結果的には私たちに抗う力を奪う、嫌でもされ続けた男は去勢されたように脱力するの」
「じゃあ幸人もそうなるはずだった…?」
「だと思ったけど無理だったみたいね…それにあの子は厄介に知沙のことが好きだし…諦めないかもね…けど、私もお母さんに会わせたい気持ちもあるから諦めないでほしいとも考えてる…」
「お母さん…!?」
今ハッキリと幸人にはお母さんと会ってほしいと言った。でも彼女はまだその母親に会ったことはない。顔を見たことがないならあまり明美の前にも現れない存在だろうか?
「あの子があそこまで人を殺せるようになったのは私の責任でもあるの…私はあの子のお母さんを利用した、最低な女だから…」
幸人の母親がいるかもしれないのならここまで自分に接触し、知沙と愛を深め合っている理由も頷ける。
「これから幸人君がどう動くかわからないけど、敵はもう一ついるわ…」
「敵ですか?」
「真美、この前海外マフィアとやらに襲われたでしょ?」
「はい。幸人の家を飛び出したときに」
「それがここ最近勢力を拡大してる。けど海外マフィアといえ私たちに固執して襲う理由を考えてたの…おそらくお互い因縁の関係かもしれないわ」
マフィアが真美を狙う理由は確かに臓器や身体そのものを売る目的、つまり金目当ての理由は一つある。実際彼女たちに殺された卓郎は珠水鳳凰の傘下にあたるマフィアに金を借りると同時、その返せなくなった借金を返す条件としてヤクを売り捌くなどの犯罪を犯していた。彼女は全く知らなかった事実だが、DVクズ男だけじゃなく正真正銘の犯罪者が旦那だったのだ。そう考えると犯罪者を「拷問」によって殺しただけになるが、自分なりの正義は貫いたつもりだ。
「幸人君が敵になるか味方になるかは私にはわからない…けど、あの子を愛したいならそれは自由だし、そのときは私より幸人君を優先しな?」
とはいっても幸人には知沙がいる…それに明美が言う言葉には何か裏なのか子供を想うような意志が感じられる。彼女は少し間を置いてからビールを飲み干した。
数時間後
ゴクゴク…
「はぁ~…」
「ぷはぁ~…!」
幸人と知沙は少し離れたホテルに辿り着き、彼女は全く飲めなかったお酒を珍しく何杯か飲んでいた。彼がかなり酒豪で余裕な様子だが彼女の方はダウンしそうだ。飲んでいるお酒は缶ビールの他アルコール13%程度のボトルワイン。2人で注いで飲む。
「ふぅ〜…お酒なんて何年ぶりかしら…?うぅ気持ち悪い…」
「無理しちゃダメですよ?」
バスローブを着た彼女は酔った勢いで脚を大股に開いてゲラゲラと笑う。まるで息子殺しの業を背負った女性とは思えない。
「幸人君…カモンッ…!」
「はい…」
ガシッ…ドンッ…!
「キャッ…!」
勢い良く彼の腕を引っ張った弾みでベットから落下。彼が腕を入れたためダイレクトに落下することは免れたが、彼女の口からかなり酒臭い息が出る。
「床硬いですよ…よいしょ…」
お姫様抱っこでベットに寝かせる。すると彼女は酔っているときにしか話せないと思ったのか、自分の過去の話をうまく回らない舌で語り始める。
「ねぇ幸人君…この前私が言ったこと覚えてるぅ…?」
「この前ですか?確か、えぇっと…」
「私が幸人君のお母さんになるって話だよぉ〜」
2回目のデートのときに言っていたな。彼女のことはお母さんより婚約者、とは言わなくてもいつまでも恋人でいたい気持ちだ。彼は大の年上好きなため12歳上の知沙は本当に好きなタイプだ。近くで見ても遠くで見ても、2000年代に大人気を博したあのアイドルに似ている。息子さんはこんな綺麗なお母さんに殺されてしまったのか…いや僕は何を考えているんだ?
「私の手からあの子の頬の感触が離れないの…何で私…暴走しちゃったんだろう…?誰に聞いてもわからない…」
もしかしたら彼女には2人の自分が存在しているのか?今見せている姿は優しくて、天使の顔の高橋知沙。逆に一度リミッターが外れると冷徹で無慈悲になる悪魔の顔の高橋知沙。実際彼女は優しくて息子想いの母親として有名だった。彼女の育った環境こそわからないが、悪魔の顔を持つ性質は生来のものなのかもしれない。
「あの子は私に一切抵抗しなかった…ずっとママ…やめてってだけ…アァ…!」
ゴクゴクゴクゴク…!
何とワインをボトルごと持ってラッパ飲み!案の定口に含んだワインを飲み切れず口からこぼれ落ちる。ベットの敷布団はワインで染みができる。
「ハッハッハッハ…!もう飲めなぃ~…!」
彼女の手からボトルが離れる寸前で掴むと
ゴクゴク…
彼女は相当な量飲んだのか残っていたワインはコップ1杯分。
「カァ〜…カァ〜…」
まさか油断するといびきをかいて寝てしまうほどオープンなのか…その姿を見てつい我慢できなくなり、彼女に跨るように乗ると
ガシッ…
「…!」
「つ〜かまえた!」
にしてもキスするだけで酒の匂いしかしない…たまにはこういうのもいいだろう。
「決めたわ!私、幸人君のお母さんになる!」
「お母さんに…」
「でも忘れないで!私たちは愛し合う仲だから…」
「ほ…本当ですか?」
「うん!だからもっとこっち来て唇ちょうだい!」
チュッ…!
「知沙さんがお母さんなら僕は息子ですか?でも同じように殺そうなんて考えないでくださいね?」
「あったり前じゃん!今日からあなたのママは私よ!」
彼女の酔い潰れる目は女性らしく可愛らしいが、母のような優しい目も見える。同時に息子を殺してしまった罪悪感、そして今母親代わりになる決意が感じられる。このまま母親に会えなくてもいいと思っていた。何故なら、知沙という母親代わりで愛する人が傍にいるのだから。