哀しみのオレンジ Black Jam
EPISODE2 Black Jam
2015年。まだ5歳と幼い秋元純。普通この漢字を見れば誰もが「じゅん」と読むだろう。実は純と書いて「ぴゅあ」と読むのだ。純が帰る場所は誰が見ても平和とは言えない、むしろ帰れば地獄の家で家族と過ごしていた。例えば子供に対する虐待。それはどういうものが該当すると皆様はお考えだろうか?当然子供に手を上げる暴力などは身体的虐待、子供を直接殴らなくても夫婦喧嘩を目の前で行う、殴る蹴る光景を見せつけるのは心理的虐待。解説はここまでにして本題に入るが、幼い純は両親による性的虐待に毎日悩まされている…
クチュ…クチュ…
「はぁ…はぁ…」
「出すぞ…出すぞ…!」
「うぅ…!」
「ほらぁ?純も見てるだけじゃなくてこっち来いよ?なぁ…あっヤベェ出る!ウッ…!」
純が両親に性行為を見せられたのは一度や二度じゃない。父親の悠馬は職を転々とするフリーターで母親の絵美は浮気性のギャンブル狂い。借りてはならない所からも借金しているため
ドンドンドン…!
「おい秋元ぉ〜!早く金返せよ!」
「秋元ぉ〜!」
お互い全裸の状況で闇金からのガサ入れ。
ドーン!
「お楽しみのところ悪いなぁ!耳揃えて返してもらおうか」
「もうちょっと待ってください!」
「その言葉聞き飽きたんだよ!」
純は物陰に隠れて声を出さないよう息を止める。まだ5歳という幼さで反社の人間、怖い大人の男性の脅しを見て心が壊れそうになる。ところが…!
「じゃあコイツ使ってください!」
「あぁ~?」
「ほらコイツです!コイツ…」
「何だぁ?ただのガキじゃねぇか?」
「コイツチビですが役に立つんで…煮るなり焼くなりお願いしますよ!」
「そうです!」
自分たちの保身のためなら5歳の娘すら差し出すクズ親の典型例。物陰に隠れていた純に闇金たちの目が向けられる。いくら反社の人間でも幼い子を働き手として使ったりしないはず…そう信じたいところだが
「ほう…おもしれぇじゃねえか?なら股の緩い女のガキなら児童ポルノに使っても構わねぇな?」
「はい!何でもやっちゃってください!」
「そうよ!コイツなら使えますよ!?」
「パパ…ママ……来ないで…キャアーー!」
この日を境に純は身体の写真に動画を撮られ、闇のポルノサイトで世界中に売られた。児童ポルノ動画が好きな小児性愛者は多くいる。動画が売れに売れまくったことはクズ親にとって好都合な想定外。よって両親の借金はすぐに返せたのだが、高いギャラに味をしめたクズ親はとことん娘を使って動画を売りまくっていた…そして13年後。
「おいもっと股開け!」
「もうやめて…」
ピルを何錠飲んだのか全く覚えていない。言うまでもないがアダルトビデオを制作するにも色々な法に則って撮影され、モザイク処理がされるなりして動画が販売される。大人の男性なら観たことあると思うが、コンドームなしで挿入しているように見えるシーンでも、一概には言えないが付けているパターンが多い。18歳になった純は法律もクソもない事務所に放り投げられ
ヌプゥ…
「18歳は締まりが良いなぁ…もう出そうだ…」
「(もうヤダ…)」
18歳、これからもっと女の子らしく生きたいのにクズ親のせいで台なし。それどころか女性としての尊厳すら踏み躙られた。高校は2年生まで通っていたが違法動画の事実が露見して強制退学。
「イグ…!」
「やめてっ出さないで…!」
必死の訴えも虚しく熱いものが膣に流れてくる。そのまま膣口から垂れ
「はいカット!今日も良いのが撮れたぞぉ〜!」
「OK!早速修正せず配信してくれ」
「はぁ…はぁ…」
親にとって娘はただの稼ぎ頭。それにネットの世界は恐ろしく純が出演した動画は海外にも配信されており、完全にネットから消すことはほぼほぼ不可能だろう。彼女が家に帰ると
「おう純!どうだぁ今回のギャラは…?」
「これ…です…」
彼女は父親に札束を手渡す。札束を夢中に数えていると後ろから母親も現れ
「これ50はあるんじゃない!?流石私の娘ね!」
「うぅ…」
13年前は賃貸アパートに住んでいたが今は一軒家に住んでいる。今でも両親共フリーターで一軒家など購入できないはずだが金の出どころは18歳の娘。だが一瞬にして金を使い切るクズ親であるため金が切れればまたアダルトビデオを撮影させる。そんな彼女だが唯一心をリラックスできるのは、家が広いお陰で静かにクラシック音楽を聴けることだった。夢はバリオリニストになりたい。私の幼い頃からの夢だった…
数日後。水瀬佑香は赤ん坊の結月をベビーカーに乗せて散歩に出ていた。今日は細い雪が降っている。
「結月は寒くないかなぁ~?」
「えへっ…へへ…」
幸せな気分で歩いている彼女たちの傍には
ぴた…ぴた…
「はぁ…はぁ…」
裸にバスローブを巻いただけの女性がこの寒い外を歩いている。それに気付いて
「どうしたのかしら?」
「うぅ……」
バタンッ!
「君!?」
彼女はベビーカーを安全な所に一旦置いて倒れた女性に駆け寄る。冷え込むくらいの寒さなのに女性の身体に触れると
「冷たい…!救急車…!」
彼女は慌てて救急車を呼ぼうと携帯をバッグから出す。掛けようとした瞬間
トン…
「私がやった方が早いわ…」
「あなたは?」
「医者よ」
現れたのは医者と名乗る女性。渡された名刺には
「葉琉州大学附属病院…熊谷玲乃さん!?」
今は所属していないため過去の名刺だが、彼女は現れた女性が医者だと完全に信じ込んだ。女性の名前は熊谷玲乃(39)。かつて世界が認めるスーパードクターとして医師界隈にその名を轟かせていたが、学生時代に自分をイジメていた元同級生が搬送された際、医療ミスと称して殺害した過去がある。
「あとは私に任せなさい!そこの子あんたの赤ちゃんでしょ?風邪引いちゃうわよ」
「はい…」
すると玲乃は慣れた手つきで着ている上着で身体を包むとおんぶするようにしてダッシュ。
「(低体温でかなり弱ってる…こりゃマズいわね…)」
彼女が走り出して10分。辿り着いた先はRose Orangeという組織のアジトだ。そこには手術室も完備している。
バタンッ!
「お疲れ様で…ってどうしたんですか!?」
「早く手術室の準備をしてちょうだい!オペを行う…」
玲乃は闇医者だ。肩書きだけ聞くと信用できないのではないかと思われるが、彼女の腕は群を抜いており難関大学の医学部を卒業後、医学部の大学院で博士号を修得している。
「出血量が酷い…でも20分以内に助ける!」
彼女は物凄い手際の良さで輸血してメスを入れ、傷口を凄まじい早さで縫合した。果たして女性は助かるのか?それに真冬の中全裸にバスローブのみを巻いて歩いていた理由とは何だ?
「んん…ここは?私…確か…」
「目が覚めた?私があなたを助けたのよ」
「私…さっき…」
「私は熊谷玲乃。あなたは?」
「秋元純です…」
「ん…?ぴゅあちゃん?」
「うぅ…」
「ごめんなさいごめんなさい…!可愛いじゃない?」
玲乃は本来少し冷たい性格だが内に秘めた優しさは誰よりも強い。やはり純でぴゅあと読む名前は何度二度聞きされたことか。
「何かあるなら私に話してくれない?私は味方よ。それに純ちゃん…まだ17とか?」
「18です!」
「ッ!?ちょっと落ち着いて…悪かったから」
今ここで名前が出たが、彼女によって助けられた女性の正体は純と書いてぴゅあと読む秋元純(18)。今が12月なら高校3年生か?それに全身には殴打の痕と切り傷がおびただしいほどあり、気になるのは腹部辺りに人糞が付着していた。その経緯に至った理由がどうしても読めない。すると
コツコツ…
「秋元純ちゃん…今調べたらあなたの両親…随分なクズ野郎のようね?」
「明美さん…お疲れ様です」
静かに現れたのは奥野明美(52)。Rose Orangeのリーダーを務める女性だ。Rose Orangeとは女性のみで構成されている復讐者集団の名前で、何とか集団など目的みたいなのは違うが、実態はRedEYEとほぼ同じだ。明美が現れると純は急に黙り込む。
「さあ、私たちに話してごらんなさい?少なくとも…悪いようにはしないわ」
「聞いてくれるんですか…?」
明美からはこの世のものとは思えない安心感、同時に恐怖感が凄まじかった。純は重い口を開いて自分の身に何が起きたのかを語り始める。
数時間前。このときも違法アダルトビデオの撮影を強要されていた。いつものようにピルは飲んでいる。だが今回言われた内容は我が耳を疑うものだった。
「スカ○ロ?何ですか…それ?」
「初めてか?要はなぁ…」
台本とその問題のプレイの内容を知らされると
「糞プレイって…!?それは流石に嫌です!」
「今日はもうそれって決まってんだ!大人しくしろ…」
それも彼女自身が排泄する瞬間を撮られるのではなく、何と相手の男が排泄したあれを口に含むプレイだ。彼女にとって死んでもやりたくない…だが
バチンッ!
「うっ…!」
「逆らうなよ?大人しく従え…!」
「うぅ…」
周りにいる男らはタトゥーが入っていて明らかにカタギではない人間たち。恐怖の圧に押されて彼女は取り敢えず従うしかなかった。そんな状況でもどうにか逃げ出す方法を探る。
「そこに仰向けになれ…さっさとしろ」
彼女は言われるがままマットの上に寝そべると、そのまま全裸になった男が彼女の顔の真上に肛門を近付ける。彼女はなるべく警戒していることがバレないよう、目だけを必死に動かして状況を探り
「……」
もう男は出しそうだ…だが逃げ出せるチャンスがどうしても生まれない。いかにも出しそうな現状を見て我慢できず彼女はもう冷静になれなくなる!
「やめてっ!」
彼女は勢いのまま男を押した!
ビチャ…
「うぅっ…!?」
このときに糞が腹部に落ちていた。彼女は気にする余裕もなく一目散に走る!
「逃がすな!」
「はい!」
「早く外に出て助けを呼ぼう!」
事務所のあちこちにローションなど滑りやすいものが置かれている。彼女はこぼれ落ちていたローションで足を滑らせてしまい
ドテッ!
「痛っ…!」
「逃さねぇぞ!」
ローションでずっこけた彼女はあっという間に追いつかれてしまい…
ドスドス…!
「うぅ…!(このまま死ぬなんて嫌…!)」
このとき彼女は考えた。何でもっと早く逃げなかったのかと。もう誰でもいい…誰かに助けてもらおう!彼女は床にこぼれたローションを手にいっぱい掴んで馬乗りになる男の顔面に投げつけると
「うわっ…!?」
「うぅ!」
滑りやすい床を必死で走り続ける。そのまま出口に差し掛かった瞬間!
ザシュ…!
「ガッ…!?」
一つの刃が腹部に突き刺さる。殴られたことによる出血に加え深々と刺さった腹部から一気に出血が多くなる。
「社長…!?」
「困るなぁ?これからもっと稼いでもらわないと」
大振りのサバイバルナイフを持って現れたのは問題の事務所、AFFの社長だ。名前は宮本哲基。元極道組織成田組の構成員だったのだが、組のシノギをまともにしないどころかカタギの人間に手を出しすぎたことで絶縁を言い渡されていた。
「さあ撮影の続きだ…」
奴は彼女の出血すら気にせず腕を掴んで戻そうとする。だが
ヌル…
「あっ…」
ローションで滑り男の手が離れる。このチャンスを逃してしまったら二度と逃げられない!
「うわぁー!」
ドンッ…!
「チッ!?クソ待て!」
ぴたぴたぴた…!
彼女はバスローブのみを巻き、極寒の外で冷えたアスファルトを裸足で無我夢中に走り出す!必死で走っているうちに何とか追っ手を撒き、弱りきったところを水瀬佑香に発見されたというわけだ。
「酷いわね…」
「私には帰るとこがないんです…私は親にとって金稼ぎでしかない…動画だってもう消せない!」
「玲乃…」
玲乃の方は純の話を聞いた途端に黙り込んだ。
「どこ行く気?」
「AFFをぶっ潰します…」
「その覚悟、やっぱり知沙に似てるわね…」
知沙とは2年前に亡くなったRose Orangeの大戦力、高橋知沙のことだ。メンバーの中で最もワケアリの経歴を持ち、何とも2023年に実の息子を「一生の所有物にしたい」という歪んだ愛情が暴走して殺害している。
「知沙…?」
「どうかした?」
「いや…(どこかで聞いたことあるような…)」
トン…
「純ちゃん。あなたは今日からあんな事務所で働く必要なんてないわ。それにクズ親が待っている家に帰る必要もない…」
「どういうこと…」
「私たちわね、人助け以外にも色んな仕事してるの!だから信じて?」
トントン…
玲乃は白衣からジャンパーに着替えてどこかへと出向いた。そして明美と純は2人きりになり
「ねぇ…もう一回あなたの身体、見せてくれない?」
「……」
純はアダルトビデオの撮影で何度も全裸になっているためか、一切の恥じらいを見せず病院服を脱いだ。
「ちょっとゴメンね…」
全身には先ほど受けた暴力の痕とナイフの痕の他、おそらくSMプレイを強要された際にできたミミズ腫れも身体に刻まれていた。すると何故か明美の方も服を脱ぐ。
バサッ
「!?」
彼女の裸を見た純は口を開けて驚きの声を上げる。それも当然だ。何故なら彼女の上半身には天女の刺青が刻まれているからだ。すると奇妙なことを言い出す。
「あなたの苦しみ、哀しみ恨み…そして憎しみ…その全てを私の身体に捧げてみない?」
今日に至るまで道徳心のない男からコンドームなしでセックスを強要され、やりたくもないプレイを強要されて身体と自尊心を散々痛めつけられた。彼女の身体から溢れ出る天女の優しさと彼女自身の包容力を感じて純はつい我慢できなくなり…
「お願いします…私、あなたに捧げたいです…!」
「いいわ…」
ペロ…チュパッ…
純の右手の指を咥えて舐める。初めて優しく慣れられる感触、温もり、これから訪れる快楽を想像すると逆らうこともできなくなる。
「脱がすわね」
「はい…」
クチュ…
指を挿れた瞬間感じ取ったのは18歳なのに膣口が非常に緩い。ほぼ毎日挿入されたことを物語っている。
クチュクチュ…
「うっ…ヤバい…何か出ちゃう…!うっ…!」
ビュッビュー…!
あまりの気持ち良さに純は潮を吹く…物凄い量を出しているのに痛みを感じない。さらに我慢できなくなり
「奥野さん…!」
チュ…チュ…チュ!
純はまるで獲物を捕食するようにキスを連発する。その勢いには明美もビックリするくらいで、気付いたら明美の方が押し倒されていた。だが明美が純の膣口に指を挿れると
「また出ちゃう…あぁ~…!」
ビュー…!
純は快楽のあまり彼女の上に乗るように意識を手放した。
数十分後。
「秋元が飛んだ…次の駒を用事しなきゃな」
AFFは18歳未満(高校生を含む)の女性をほぼ拉致のような形で人手を確保し、違法アダルトビデオを撮影して世界中に売り捌く。そして事務所の中には対象の少女たちが10名以上。旨味がなくなれば使い捨てる魂胆だ。すると
キィー…バタンッ…
「誰だ?んん~?あんた若くねぇな…何しに来たんだ?」
事務所の扉を叩いたのは30代後半の女性。奴らにとって出演の対象外。
「度胸あるならここで脱げ…」
女性は何も口を開かないままジャンパーから脱ごうとする。だが一切の予備動作なく何やら小型の刃物と思われる武器を手に取り
スパッ…
「……」
バタンッ…
「おい早くビール買ってこいって…おい!?」
一人の女性が医療用のメスで首筋を一瞬で掻っ切った。すると
「正義の闇医者、熊谷玲乃様の登場よ」
少し痛い自己紹介を終えると騒ぎに気付いた連中の視線が彼女に集まる。
「何だガサ入れかぁ!?」
彼女は医師として神の手を持つ傍ら、Rose Orangeでの訓練を受けているため戦闘力は並ではない。得物は医師らしく医療用メス。ナイフや包丁と比べても一目瞭然だがリーチが短い。
「あなたたちは未成年の女の子を利用して汚い稼ぎ方をした…放ってはおけない」
「稼げれば何でもいいんだよこの時代!」
すると事務所の男たちはナイフを取る。対する彼女はメス。
「相手はババア一人だ!殺れ!」
「失礼ね…私はまだ39だっての!」
その掛け声と同時、彼女はステップを切ってあっという間にメスで
「どこ行った…?」
スパッ…スパッ…ブシャー…!
彼女は首筋以外一切傷つけることなく一瞬にして命を奪う。あっという間に大半を全滅させ
「死ねぇ!」
最後に残った男が銃を向ける。
シュッ…グサッ!
何とメスを投げて男の左眼球に突き刺す!そのまま眼球を抉り取り
スパッ…
「クソッ…何なんだこの女!」
「聞かせてもらおうかしら?何故幼い女の子たちを使ってこんな腐った稼ぎ方をした?」
「なら俺に勝ってから聞くんだな!俺は元成田組の宮本哲基だ」
「知ってる…カタギに手を掛けた腐れヤクザね」
AFF社長 宮本哲基
奴は元極道。確かに踏み込みも早く攻撃に無駄がない。だが
「遅い…」
スッ…
「グワァ!?」
まさか一投げのメスで元極道が戦意喪失するとは。
「俺の…目が…!」
「全くのお山の大将ね…女の子は皆返してもらうわ」
「助けてくれ…!俺は金が欲しかっただけなんだ!」
「今までどこにその動画をばら撒いた?」
「もうわかんねぇくらい広めたよ!俺が片っ端から消すから許してくれ…!」
消すと言ってもどれだけ時間と手間が掛かると思っているのか?動画の削除にはあのメンバーに任せるのが一番良いだろう。そんな命乞いなど彼女には無意味。
「まだ私に殺されるだけマシよ?私は拷問なんて手間掛けたくないし…もっと恐ろしいのいるから」
「待ってくれ…やめっ」
スパッ…
AFFの社長、宮本は彼女の華麗なメス捌きにより一瞬で絶命。これで秋元純に脅威が迫ることはないだろう。
「大丈夫?これでもう安心よ…」
「ありがとうお姉さん…」
「ありがとう!」
2人の少女は撮影前だったため服はそのまま。寒い外へ出ても家に帰れるだろう。
「AVも法律は守らなきゃダメってね…ってん…?」
さっきまで気付かなかったが宮本の亡骸から流れる血。何故かかなり黒い。彼女は医療用手袋を填めてシリンジで血液を採取しようとするが
「何これ?」
何故かサラッと採取できない。やっとのことで何とか採取するが、問題の血液はまるでジャムのようにドロっとしていた。医師人生こんな血液は見たことはない。これは早く持ち帰って解析にかけなければ…このジャムのような血液、その裏に驚愕する事実が隠されていることを、このときは知る由もなかった…
「ばぁぶ…ばぁぶ…」
「ほらっ…高い高〜いですよ!」
柔らかくて温かい結月が愛おしくて仕方ない親バカの幸人。
「きゃきゃきゃ…!」
「可愛いです…!」
彼が刑事として働いていた時代は皆から「悪魔」と呼ばれるサイコパスな男として知られていた。幸人が?と思うかもしれないが実際サイコパスな面は今でも健在だ。どうしても妻に露見してはいけない事実の一つだが、死んでも教えられないのは自分は何人も殺している執行人であることだ。万が一全て知られてしまったときは自分の存在を抹消し、執行人の家族である事実を隠すこと…
「(僕ができることは愛する家族を守ること…)」
いつ自分に魔の手が迫るかわからない。わからないからこそ今ある幸せを大切にしたい。
ブーブーブー…
「ちょっとすいません…」
テーブルの上に乗っている携帯に着信が。一旦結月を寝かせて発信元を見ると
「山口さん…珍しい」
山口とは刑事時代の先輩、山口真悠斗(35)。全くと言っていいほど連絡なんて取り合っていなかった。
「はい…?」
「水瀬君か?久しぶりだな…赤ちゃん生まれたんだって?おめでとうさん…」
「何の御用ですか?その声、とても喜びの声には聞こえませんが?何があったのです…?」
彼は電話越しでも声が震えているのを感じ取った。自分に電話を掛けてくるなんて余程急用なことはすぐに察する。
「……」
「山口さん…!隠さないで話してください。そろそろ夕飯の支度もありますので…」
すると山口が放った第一声が…
「坂本さんが…亡くなったんです…」
「…!?どういうことです…!?」
坂本、坂本逸郎(54)は彼の元上司。サイコパスで恐れられる幸人に誰よりも優しく接し、彼の心を開くキッカケを作った存在だ。そんな彼は坂本のことを尊敬していた。山口の声を聞くに「葬儀に参加してほしい」って単純な話ではない。
「今捜査してたんだが、黒くてドロっとした血を吐き出した痕跡があったんだ…それもジャムにしか見えなかった」
「ジャム…」
「隠してて悪かった!もし俺に何かあったら水瀬君を頼ってくれって、坂本さんが前から言ってたんだ!」
坂本にとって最後の頼みの綱が幸人だったのか。だがジャムのような血液の話は単なる冗談では看過できない。
「おぎゃあ…!おぎゃあ…!」
「泣いちゃったか…?また何かわかったら連絡する!」
プツッ…
「一体何が…」
坂本さん…あの人は笑顔を失った僕に、笑顔を取り戻してくれることを誰よりも信じていた。一度くらい酒を飲み交わしたが、もっと接しておけばと今更ながら後悔する…
「クソッ…!」
今でも自分の携帯を破壊してしまいそうな焦燥感。
「おぎゃあ…!おぎゃあ…!」
「ただいまぁ…はぁ重かった…ってちょっとあなた!結月が泣いてるじゃない…!?」
娘が泣いているのに携帯を持って突っ立っている夫を見て少し声を荒らげてしまう。
「ハッ…!?すいませんすぐ替えます…!」
妻の声を聞いてようやく正常を取り戻す。とにかく今は山口からの進捗の連絡を待つしかない。しかし坂本逸郎の死は、水瀬一家を恐怖のドン底に突き落とすことになる…
クチュ…クチュ…
「はぁ…はぁ…」
「出すぞ…出すぞ…!」
「うぅ…!」
「ほらぁ?純も見てるだけじゃなくてこっち来いよ?なぁ…あっヤベェ出る!ウッ…!」
純が両親に性行為を見せられたのは一度や二度じゃない。父親の悠馬は職を転々とするフリーターで母親の絵美は浮気性のギャンブル狂い。借りてはならない所からも借金しているため
ドンドンドン…!
「おい秋元ぉ〜!早く金返せよ!」
「秋元ぉ〜!」
お互い全裸の状況で闇金からのガサ入れ。
ドーン!
「お楽しみのところ悪いなぁ!耳揃えて返してもらおうか」
「もうちょっと待ってください!」
「その言葉聞き飽きたんだよ!」
純は物陰に隠れて声を出さないよう息を止める。まだ5歳という幼さで反社の人間、怖い大人の男性の脅しを見て心が壊れそうになる。ところが…!
「じゃあコイツ使ってください!」
「あぁ~?」
「ほらコイツです!コイツ…」
「何だぁ?ただのガキじゃねぇか?」
「コイツチビですが役に立つんで…煮るなり焼くなりお願いしますよ!」
「そうです!」
自分たちの保身のためなら5歳の娘すら差し出すクズ親の典型例。物陰に隠れていた純に闇金たちの目が向けられる。いくら反社の人間でも幼い子を働き手として使ったりしないはず…そう信じたいところだが
「ほう…おもしれぇじゃねえか?なら股の緩い女のガキなら児童ポルノに使っても構わねぇな?」
「はい!何でもやっちゃってください!」
「そうよ!コイツなら使えますよ!?」
「パパ…ママ……来ないで…キャアーー!」
この日を境に純は身体の写真に動画を撮られ、闇のポルノサイトで世界中に売られた。児童ポルノ動画が好きな小児性愛者は多くいる。動画が売れに売れまくったことはクズ親にとって好都合な想定外。よって両親の借金はすぐに返せたのだが、高いギャラに味をしめたクズ親はとことん娘を使って動画を売りまくっていた…そして13年後。
「おいもっと股開け!」
「もうやめて…」
ピルを何錠飲んだのか全く覚えていない。言うまでもないがアダルトビデオを制作するにも色々な法に則って撮影され、モザイク処理がされるなりして動画が販売される。大人の男性なら観たことあると思うが、コンドームなしで挿入しているように見えるシーンでも、一概には言えないが付けているパターンが多い。18歳になった純は法律もクソもない事務所に放り投げられ
ヌプゥ…
「18歳は締まりが良いなぁ…もう出そうだ…」
「(もうヤダ…)」
18歳、これからもっと女の子らしく生きたいのにクズ親のせいで台なし。それどころか女性としての尊厳すら踏み躙られた。高校は2年生まで通っていたが違法動画の事実が露見して強制退学。
「イグ…!」
「やめてっ出さないで…!」
必死の訴えも虚しく熱いものが膣に流れてくる。そのまま膣口から垂れ
「はいカット!今日も良いのが撮れたぞぉ〜!」
「OK!早速修正せず配信してくれ」
「はぁ…はぁ…」
親にとって娘はただの稼ぎ頭。それにネットの世界は恐ろしく純が出演した動画は海外にも配信されており、完全にネットから消すことはほぼほぼ不可能だろう。彼女が家に帰ると
「おう純!どうだぁ今回のギャラは…?」
「これ…です…」
彼女は父親に札束を手渡す。札束を夢中に数えていると後ろから母親も現れ
「これ50はあるんじゃない!?流石私の娘ね!」
「うぅ…」
13年前は賃貸アパートに住んでいたが今は一軒家に住んでいる。今でも両親共フリーターで一軒家など購入できないはずだが金の出どころは18歳の娘。だが一瞬にして金を使い切るクズ親であるため金が切れればまたアダルトビデオを撮影させる。そんな彼女だが唯一心をリラックスできるのは、家が広いお陰で静かにクラシック音楽を聴けることだった。夢はバリオリニストになりたい。私の幼い頃からの夢だった…
数日後。水瀬佑香は赤ん坊の結月をベビーカーに乗せて散歩に出ていた。今日は細い雪が降っている。
「結月は寒くないかなぁ~?」
「えへっ…へへ…」
幸せな気分で歩いている彼女たちの傍には
ぴた…ぴた…
「はぁ…はぁ…」
裸にバスローブを巻いただけの女性がこの寒い外を歩いている。それに気付いて
「どうしたのかしら?」
「うぅ……」
バタンッ!
「君!?」
彼女はベビーカーを安全な所に一旦置いて倒れた女性に駆け寄る。冷え込むくらいの寒さなのに女性の身体に触れると
「冷たい…!救急車…!」
彼女は慌てて救急車を呼ぼうと携帯をバッグから出す。掛けようとした瞬間
トン…
「私がやった方が早いわ…」
「あなたは?」
「医者よ」
現れたのは医者と名乗る女性。渡された名刺には
「葉琉州大学附属病院…熊谷玲乃さん!?」
今は所属していないため過去の名刺だが、彼女は現れた女性が医者だと完全に信じ込んだ。女性の名前は熊谷玲乃(39)。かつて世界が認めるスーパードクターとして医師界隈にその名を轟かせていたが、学生時代に自分をイジメていた元同級生が搬送された際、医療ミスと称して殺害した過去がある。
「あとは私に任せなさい!そこの子あんたの赤ちゃんでしょ?風邪引いちゃうわよ」
「はい…」
すると玲乃は慣れた手つきで着ている上着で身体を包むとおんぶするようにしてダッシュ。
「(低体温でかなり弱ってる…こりゃマズいわね…)」
彼女が走り出して10分。辿り着いた先はRose Orangeという組織のアジトだ。そこには手術室も完備している。
バタンッ!
「お疲れ様で…ってどうしたんですか!?」
「早く手術室の準備をしてちょうだい!オペを行う…」
玲乃は闇医者だ。肩書きだけ聞くと信用できないのではないかと思われるが、彼女の腕は群を抜いており難関大学の医学部を卒業後、医学部の大学院で博士号を修得している。
「出血量が酷い…でも20分以内に助ける!」
彼女は物凄い手際の良さで輸血してメスを入れ、傷口を凄まじい早さで縫合した。果たして女性は助かるのか?それに真冬の中全裸にバスローブのみを巻いて歩いていた理由とは何だ?
「んん…ここは?私…確か…」
「目が覚めた?私があなたを助けたのよ」
「私…さっき…」
「私は熊谷玲乃。あなたは?」
「秋元純です…」
「ん…?ぴゅあちゃん?」
「うぅ…」
「ごめんなさいごめんなさい…!可愛いじゃない?」
玲乃は本来少し冷たい性格だが内に秘めた優しさは誰よりも強い。やはり純でぴゅあと読む名前は何度二度聞きされたことか。
「何かあるなら私に話してくれない?私は味方よ。それに純ちゃん…まだ17とか?」
「18です!」
「ッ!?ちょっと落ち着いて…悪かったから」
今ここで名前が出たが、彼女によって助けられた女性の正体は純と書いてぴゅあと読む秋元純(18)。今が12月なら高校3年生か?それに全身には殴打の痕と切り傷がおびただしいほどあり、気になるのは腹部辺りに人糞が付着していた。その経緯に至った理由がどうしても読めない。すると
コツコツ…
「秋元純ちゃん…今調べたらあなたの両親…随分なクズ野郎のようね?」
「明美さん…お疲れ様です」
静かに現れたのは奥野明美(52)。Rose Orangeのリーダーを務める女性だ。Rose Orangeとは女性のみで構成されている復讐者集団の名前で、何とか集団など目的みたいなのは違うが、実態はRedEYEとほぼ同じだ。明美が現れると純は急に黙り込む。
「さあ、私たちに話してごらんなさい?少なくとも…悪いようにはしないわ」
「聞いてくれるんですか…?」
明美からはこの世のものとは思えない安心感、同時に恐怖感が凄まじかった。純は重い口を開いて自分の身に何が起きたのかを語り始める。
数時間前。このときも違法アダルトビデオの撮影を強要されていた。いつものようにピルは飲んでいる。だが今回言われた内容は我が耳を疑うものだった。
「スカ○ロ?何ですか…それ?」
「初めてか?要はなぁ…」
台本とその問題のプレイの内容を知らされると
「糞プレイって…!?それは流石に嫌です!」
「今日はもうそれって決まってんだ!大人しくしろ…」
それも彼女自身が排泄する瞬間を撮られるのではなく、何と相手の男が排泄したあれを口に含むプレイだ。彼女にとって死んでもやりたくない…だが
バチンッ!
「うっ…!」
「逆らうなよ?大人しく従え…!」
「うぅ…」
周りにいる男らはタトゥーが入っていて明らかにカタギではない人間たち。恐怖の圧に押されて彼女は取り敢えず従うしかなかった。そんな状況でもどうにか逃げ出す方法を探る。
「そこに仰向けになれ…さっさとしろ」
彼女は言われるがままマットの上に寝そべると、そのまま全裸になった男が彼女の顔の真上に肛門を近付ける。彼女はなるべく警戒していることがバレないよう、目だけを必死に動かして状況を探り
「……」
もう男は出しそうだ…だが逃げ出せるチャンスがどうしても生まれない。いかにも出しそうな現状を見て我慢できず彼女はもう冷静になれなくなる!
「やめてっ!」
彼女は勢いのまま男を押した!
ビチャ…
「うぅっ…!?」
このときに糞が腹部に落ちていた。彼女は気にする余裕もなく一目散に走る!
「逃がすな!」
「はい!」
「早く外に出て助けを呼ぼう!」
事務所のあちこちにローションなど滑りやすいものが置かれている。彼女はこぼれ落ちていたローションで足を滑らせてしまい
ドテッ!
「痛っ…!」
「逃さねぇぞ!」
ローションでずっこけた彼女はあっという間に追いつかれてしまい…
ドスドス…!
「うぅ…!(このまま死ぬなんて嫌…!)」
このとき彼女は考えた。何でもっと早く逃げなかったのかと。もう誰でもいい…誰かに助けてもらおう!彼女は床にこぼれたローションを手にいっぱい掴んで馬乗りになる男の顔面に投げつけると
「うわっ…!?」
「うぅ!」
滑りやすい床を必死で走り続ける。そのまま出口に差し掛かった瞬間!
ザシュ…!
「ガッ…!?」
一つの刃が腹部に突き刺さる。殴られたことによる出血に加え深々と刺さった腹部から一気に出血が多くなる。
「社長…!?」
「困るなぁ?これからもっと稼いでもらわないと」
大振りのサバイバルナイフを持って現れたのは問題の事務所、AFFの社長だ。名前は宮本哲基。元極道組織成田組の構成員だったのだが、組のシノギをまともにしないどころかカタギの人間に手を出しすぎたことで絶縁を言い渡されていた。
「さあ撮影の続きだ…」
奴は彼女の出血すら気にせず腕を掴んで戻そうとする。だが
ヌル…
「あっ…」
ローションで滑り男の手が離れる。このチャンスを逃してしまったら二度と逃げられない!
「うわぁー!」
ドンッ…!
「チッ!?クソ待て!」
ぴたぴたぴた…!
彼女はバスローブのみを巻き、極寒の外で冷えたアスファルトを裸足で無我夢中に走り出す!必死で走っているうちに何とか追っ手を撒き、弱りきったところを水瀬佑香に発見されたというわけだ。
「酷いわね…」
「私には帰るとこがないんです…私は親にとって金稼ぎでしかない…動画だってもう消せない!」
「玲乃…」
玲乃の方は純の話を聞いた途端に黙り込んだ。
「どこ行く気?」
「AFFをぶっ潰します…」
「その覚悟、やっぱり知沙に似てるわね…」
知沙とは2年前に亡くなったRose Orangeの大戦力、高橋知沙のことだ。メンバーの中で最もワケアリの経歴を持ち、何とも2023年に実の息子を「一生の所有物にしたい」という歪んだ愛情が暴走して殺害している。
「知沙…?」
「どうかした?」
「いや…(どこかで聞いたことあるような…)」
トン…
「純ちゃん。あなたは今日からあんな事務所で働く必要なんてないわ。それにクズ親が待っている家に帰る必要もない…」
「どういうこと…」
「私たちわね、人助け以外にも色んな仕事してるの!だから信じて?」
トントン…
玲乃は白衣からジャンパーに着替えてどこかへと出向いた。そして明美と純は2人きりになり
「ねぇ…もう一回あなたの身体、見せてくれない?」
「……」
純はアダルトビデオの撮影で何度も全裸になっているためか、一切の恥じらいを見せず病院服を脱いだ。
「ちょっとゴメンね…」
全身には先ほど受けた暴力の痕とナイフの痕の他、おそらくSMプレイを強要された際にできたミミズ腫れも身体に刻まれていた。すると何故か明美の方も服を脱ぐ。
バサッ
「!?」
彼女の裸を見た純は口を開けて驚きの声を上げる。それも当然だ。何故なら彼女の上半身には天女の刺青が刻まれているからだ。すると奇妙なことを言い出す。
「あなたの苦しみ、哀しみ恨み…そして憎しみ…その全てを私の身体に捧げてみない?」
今日に至るまで道徳心のない男からコンドームなしでセックスを強要され、やりたくもないプレイを強要されて身体と自尊心を散々痛めつけられた。彼女の身体から溢れ出る天女の優しさと彼女自身の包容力を感じて純はつい我慢できなくなり…
「お願いします…私、あなたに捧げたいです…!」
「いいわ…」
ペロ…チュパッ…
純の右手の指を咥えて舐める。初めて優しく慣れられる感触、温もり、これから訪れる快楽を想像すると逆らうこともできなくなる。
「脱がすわね」
「はい…」
クチュ…
指を挿れた瞬間感じ取ったのは18歳なのに膣口が非常に緩い。ほぼ毎日挿入されたことを物語っている。
クチュクチュ…
「うっ…ヤバい…何か出ちゃう…!うっ…!」
ビュッビュー…!
あまりの気持ち良さに純は潮を吹く…物凄い量を出しているのに痛みを感じない。さらに我慢できなくなり
「奥野さん…!」
チュ…チュ…チュ!
純はまるで獲物を捕食するようにキスを連発する。その勢いには明美もビックリするくらいで、気付いたら明美の方が押し倒されていた。だが明美が純の膣口に指を挿れると
「また出ちゃう…あぁ~…!」
ビュー…!
純は快楽のあまり彼女の上に乗るように意識を手放した。
数十分後。
「秋元が飛んだ…次の駒を用事しなきゃな」
AFFは18歳未満(高校生を含む)の女性をほぼ拉致のような形で人手を確保し、違法アダルトビデオを撮影して世界中に売り捌く。そして事務所の中には対象の少女たちが10名以上。旨味がなくなれば使い捨てる魂胆だ。すると
キィー…バタンッ…
「誰だ?んん~?あんた若くねぇな…何しに来たんだ?」
事務所の扉を叩いたのは30代後半の女性。奴らにとって出演の対象外。
「度胸あるならここで脱げ…」
女性は何も口を開かないままジャンパーから脱ごうとする。だが一切の予備動作なく何やら小型の刃物と思われる武器を手に取り
スパッ…
「……」
バタンッ…
「おい早くビール買ってこいって…おい!?」
一人の女性が医療用のメスで首筋を一瞬で掻っ切った。すると
「正義の闇医者、熊谷玲乃様の登場よ」
少し痛い自己紹介を終えると騒ぎに気付いた連中の視線が彼女に集まる。
「何だガサ入れかぁ!?」
彼女は医師として神の手を持つ傍ら、Rose Orangeでの訓練を受けているため戦闘力は並ではない。得物は医師らしく医療用メス。ナイフや包丁と比べても一目瞭然だがリーチが短い。
「あなたたちは未成年の女の子を利用して汚い稼ぎ方をした…放ってはおけない」
「稼げれば何でもいいんだよこの時代!」
すると事務所の男たちはナイフを取る。対する彼女はメス。
「相手はババア一人だ!殺れ!」
「失礼ね…私はまだ39だっての!」
その掛け声と同時、彼女はステップを切ってあっという間にメスで
「どこ行った…?」
スパッ…スパッ…ブシャー…!
彼女は首筋以外一切傷つけることなく一瞬にして命を奪う。あっという間に大半を全滅させ
「死ねぇ!」
最後に残った男が銃を向ける。
シュッ…グサッ!
何とメスを投げて男の左眼球に突き刺す!そのまま眼球を抉り取り
スパッ…
「クソッ…何なんだこの女!」
「聞かせてもらおうかしら?何故幼い女の子たちを使ってこんな腐った稼ぎ方をした?」
「なら俺に勝ってから聞くんだな!俺は元成田組の宮本哲基だ」
「知ってる…カタギに手を掛けた腐れヤクザね」
AFF社長 宮本哲基
奴は元極道。確かに踏み込みも早く攻撃に無駄がない。だが
「遅い…」
スッ…
「グワァ!?」
まさか一投げのメスで元極道が戦意喪失するとは。
「俺の…目が…!」
「全くのお山の大将ね…女の子は皆返してもらうわ」
「助けてくれ…!俺は金が欲しかっただけなんだ!」
「今までどこにその動画をばら撒いた?」
「もうわかんねぇくらい広めたよ!俺が片っ端から消すから許してくれ…!」
消すと言ってもどれだけ時間と手間が掛かると思っているのか?動画の削除にはあのメンバーに任せるのが一番良いだろう。そんな命乞いなど彼女には無意味。
「まだ私に殺されるだけマシよ?私は拷問なんて手間掛けたくないし…もっと恐ろしいのいるから」
「待ってくれ…やめっ」
スパッ…
AFFの社長、宮本は彼女の華麗なメス捌きにより一瞬で絶命。これで秋元純に脅威が迫ることはないだろう。
「大丈夫?これでもう安心よ…」
「ありがとうお姉さん…」
「ありがとう!」
2人の少女は撮影前だったため服はそのまま。寒い外へ出ても家に帰れるだろう。
「AVも法律は守らなきゃダメってね…ってん…?」
さっきまで気付かなかったが宮本の亡骸から流れる血。何故かかなり黒い。彼女は医療用手袋を填めてシリンジで血液を採取しようとするが
「何これ?」
何故かサラッと採取できない。やっとのことで何とか採取するが、問題の血液はまるでジャムのようにドロっとしていた。医師人生こんな血液は見たことはない。これは早く持ち帰って解析にかけなければ…このジャムのような血液、その裏に驚愕する事実が隠されていることを、このときは知る由もなかった…
「ばぁぶ…ばぁぶ…」
「ほらっ…高い高〜いですよ!」
柔らかくて温かい結月が愛おしくて仕方ない親バカの幸人。
「きゃきゃきゃ…!」
「可愛いです…!」
彼が刑事として働いていた時代は皆から「悪魔」と呼ばれるサイコパスな男として知られていた。幸人が?と思うかもしれないが実際サイコパスな面は今でも健在だ。どうしても妻に露見してはいけない事実の一つだが、死んでも教えられないのは自分は何人も殺している執行人であることだ。万が一全て知られてしまったときは自分の存在を抹消し、執行人の家族である事実を隠すこと…
「(僕ができることは愛する家族を守ること…)」
いつ自分に魔の手が迫るかわからない。わからないからこそ今ある幸せを大切にしたい。
ブーブーブー…
「ちょっとすいません…」
テーブルの上に乗っている携帯に着信が。一旦結月を寝かせて発信元を見ると
「山口さん…珍しい」
山口とは刑事時代の先輩、山口真悠斗(35)。全くと言っていいほど連絡なんて取り合っていなかった。
「はい…?」
「水瀬君か?久しぶりだな…赤ちゃん生まれたんだって?おめでとうさん…」
「何の御用ですか?その声、とても喜びの声には聞こえませんが?何があったのです…?」
彼は電話越しでも声が震えているのを感じ取った。自分に電話を掛けてくるなんて余程急用なことはすぐに察する。
「……」
「山口さん…!隠さないで話してください。そろそろ夕飯の支度もありますので…」
すると山口が放った第一声が…
「坂本さんが…亡くなったんです…」
「…!?どういうことです…!?」
坂本、坂本逸郎(54)は彼の元上司。サイコパスで恐れられる幸人に誰よりも優しく接し、彼の心を開くキッカケを作った存在だ。そんな彼は坂本のことを尊敬していた。山口の声を聞くに「葬儀に参加してほしい」って単純な話ではない。
「今捜査してたんだが、黒くてドロっとした血を吐き出した痕跡があったんだ…それもジャムにしか見えなかった」
「ジャム…」
「隠してて悪かった!もし俺に何かあったら水瀬君を頼ってくれって、坂本さんが前から言ってたんだ!」
坂本にとって最後の頼みの綱が幸人だったのか。だがジャムのような血液の話は単なる冗談では看過できない。
「おぎゃあ…!おぎゃあ…!」
「泣いちゃったか…?また何かわかったら連絡する!」
プツッ…
「一体何が…」
坂本さん…あの人は笑顔を失った僕に、笑顔を取り戻してくれることを誰よりも信じていた。一度くらい酒を飲み交わしたが、もっと接しておけばと今更ながら後悔する…
「クソッ…!」
今でも自分の携帯を破壊してしまいそうな焦燥感。
「おぎゃあ…!おぎゃあ…!」
「ただいまぁ…はぁ重かった…ってちょっとあなた!結月が泣いてるじゃない…!?」
娘が泣いているのに携帯を持って突っ立っている夫を見て少し声を荒らげてしまう。
「ハッ…!?すいませんすぐ替えます…!」
妻の声を聞いてようやく正常を取り戻す。とにかく今は山口からの進捗の連絡を待つしかない。しかし坂本逸郎の死は、水瀬一家を恐怖のドン底に突き落とすことになる…