【十六夜月のラブレター another side】イケメンエリート営業部員入谷柊哉くんは拗らせすぎてる
「私と話したことはあるんですか?」

「もちろん。マジで憶えてないの?」

「はい……ごめんなさい」

「いいよ。尋問続けて」

なんだろう、この違和感。

彼女も自分で言っているように記憶力は良さそうなのに。

コースの料理が次々と運ばれはじめ、食事をしながら取調べのような会話は続いた。

焼酎や日本酒も注文して勧めると酒に強い俺とは違って、彼女の頬は赤く染まりすっかり酔ってしまったようだ。

そのせいかそれまでは俺の顔をあまり見てくれなかったのに、だんだんと俺の目を見て話してくれるようになった。

会社の女子社員たちとは違って、あくまで尋問対象者を観察するような刑事の目だけど。

すると唐突にドキッとするようなことを言ってきた。

「入谷さんて、イケメンですよね」

「何それ? もしかして誘ってるの?」

「いいえ、まったく」

「だよね。めっちゃ淡々と言ってるもんね。普通そういうのって、もっと恥じらいながらとか、好き好きモードで言うもんじゃない?」

「いえ単純に造形的に不備がないなと。そりゃあキラキラ女子の皆さんが夢中になるのもわかります。彼女さんとかいるんですか?」

「いないよ。学生時代は女遊びもしてたけどもう飽きちゃった」

俺だってかわいい子も美人も好きだが、自分から追いかけているのは後にも先にも彼女だけ。

「皆さんが噂してたのが聞こえてきたんですけど、どうして大阪本社の最年少課長昇進の打診を蹴って東京支社に来たんですか? 自ら都落ちしてるようなものなのに」

「都落ち!」

彼女らしくて思わず笑ってしまう。そろそろアピールもしておくか。

俺は真っ直ぐに彼女を見つめると真剣な表情で言った。

「君に会いたかったから」

「えっ?」
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