カクレクマノミの質問
 高級ホテルのラウンジに女たちが集まり近況を報告し合っている。水槽の底に置かれたイソギンチャクの触手に身を隠しながら、カクレクマノミは彼女たちのマウント合戦を見ていた。
「身近な同僚が実は自社の御曹司だと発覚!? こっそり付き合っていた私は、溺愛されて、もう大変なの」
「いつも紳士な彼が実はとんでもない執着愛を秘めていて……溺愛されすぎて、辛い」
「家では夫婦だけど職場では他人のフリをしているふたり。職場ではクールな旦那様に家では溺愛されて、身が持たないの」
「とある理由から彼には内緒で子どもをひとり産み育てて……でも、実は彼、物凄いハイスぺ! 見つかったら溺愛されてしまう。それが今から怖いわ」
 カクレクマノミがイソギンチャクに尋ねる。
「みんな溺愛されているのに、どうして迷惑そうだったり、嫌そうな口調なの?」
「みんな貪欲だから、物足りないんだろうね」
 イソギンチャクの答えを聞いても、カクレクマノミは分からない様子だった。理解できないことが世の中には、いっぱいあるのだ。
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