ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!
「リーゼ……」

リーゼは流れる涙を拭って言った。

「最後にひとつだけお願いがあります。新しい生贄花嫁の子がかわいそうです。だから、もうこれ以上何も言わないから、私を生贄花嫁にしてください」

「……駄目だ」

「どうして?」

「新しい生贄花嫁は両目がブラックオパールの瞳だ。お前より生贄としての価値が高い」

「! 私はもう、生贄花嫁としての価値もないんですね」

カミルはリーゼの問いには答えず顔を背けた。

「そう、よくわかりました。ごめんなさい、もうこんな私でも、笑えないです……」

泣きながら去ろうとしたリーゼを、カミルが力強く抱きしめた。

「離して!」

「離さない」

「カミル様はさっきから自分が何を言っているのかわかってるんですか!?」

強く抱きしめてくる両腕を振り払いリーゼがカミルの胸から離れると、カミルの両頬には涙が伝っていた。

「……なぜ? なぜカミル様が泣いてるの?」

「俺にも、わからない……」

カミルの涙を見るのははじめてだった。リーゼは思わずカミルの両頬の涙を拭おうと両手を差し出しそうになったが、すぐにその手を引っ込めた。

「嘘でもカミル様に好きって、結婚しようって言われて、私、本当に嬉しかった。生きててよかったってはじめて思った。愛を知らない私に、夢のような一時をくれてありがとう。さよなら」

カミルに背を向けたリーゼは走り去って行った。

リーゼの足音が完全に聞こえなくなると、カミルはがっくりと石畳に両手両膝をついて大声をあげて泣いた。

石畳の上にぽたぽたと涙の雫が落ちていった。
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