ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!
リーゼの父親である大公も誑かされている一人なのだろう。それがリーゼを不幸にしたというのに。

晩餐会を終えると一行は湖畔へと向かった。満月は天頂に近付けば近付くほど白く煌々と輝いて益々紅色には程遠くなり、琥珀色から銀色になっていた。

湖畔には月明かりに照らされた高さ10メートルほどの階段付の櫓が組まれ、その上には焚火台が設置されていた。一行は櫓の下で待機し、カミルとザシャは櫓に上った。ザシャが焚火に着火すると空高く炎が燃え上がる。もうすぐ天頂に来る満月に届きそうなほどに。

そして真夜中になり、遂に銀色の満月が天頂に来た時だった。

燃え盛っていた焚火の炎が業火に変わり、月まで届きそうな火柱となった。その灼熱の炎の中から咆哮しながら大きな翼を拡げ、天に向けて飛翔するドラゴンが現れた。その口からすべてを焼き尽くすような炎を吐いた時、天頂の満月が紅く染まり紅の月となった。

ドラゴンは翼を羽ばたかせながら恐竜のような鋭い爪の指を獲物を捕まえるが如く拡げ、宙に浮いたまま怖ろしい黒い縦長の瞳孔の黄色い瞳で一行に向かって吠えた。

「我はシュヴァルツヴァルトの支配者に仕えしドラゴン。シュヴァルツヴァルトの正統管理者の一人である狼筋の当主よ、122年に一度の支配者への忠誠と懺悔の証として、ブラックオパールの瞳を持つ生贄花嫁を捧げよ」

櫓の上のカミルはドラゴンの前に進み出た。

「我が名はヴォルフ家当主カミル7世・フォン・ヴォルフ。御言葉通り忠誠と懺悔の証として、ブラックオパールの瞳を持つ娘を生贄花嫁として支配者に捧げる、ことはできない」

「何? ふざけるでない、呪われしカミルの名を継ぐ者よ。貴様が管理する森の生きとし生けるものすべてが消滅しても良いと言うのか?」
< 126 / 142 >

この作品をシェア

pagetop