離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 翌朝、町の大通りには重苦しい空気が流れていた。
 護衛兵士たちに囲まれ、一台の馬車がゆっくりと進んでいく。
 人々が集まってきて、誰もが不安と疑念の表情を浮かべて見つめている。
 すると、ある者が声を上げた。

「侯爵夫人がよそへ嫁ぐそうだぞ」
「どういうことだ?」
「領主様が亡くなって、奥様は未亡人になったからか」
「再婚なんて早すぎるだろう」
「体よく追い出されたんだ」

 ざわめきが波のように広がる中、食堂から出てきたメルアが人々のあいだをすり抜ける。彼女は走っていく馬車に向かって声を上げた。

「アリシア……!」

 メルアは追いかけようとするが、加速する馬車に追いつけるはずもなかった。すると、その背後から蹴るように飛び出したのはディーンだった。
 ディーンは凄まじい速さで馬車を追いかけ、大声で叫ぶ。

「アリシアーっ!」

 その声が朝の通りに響きわたる。人々は息を呑んでその様子を見ていた。
 誰もが馬車に追いつけるはずがないことを知っていても、ディーンのやることに何も言わず、ただ落胆したように見つめるだけだった。

 やがて馬車は町外れの角を曲がり、通りの先へと消えていく。
 ディーンは立ち止まり、肩で息をしながらその場に立ち尽くした。

< 152 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop