離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスはゆっくりと静かな足取りで、グレゴリーへと近づいていく。
 堂々たるその迫力に、グレゴリーは思わず半歩後ずさった。しかし、すぐに虚勢を張るように拳を握りしめ、睨み返した。
 フィリクスは一歩も怯まず、冷たい視線を向けたまま、静かに口を開く。

「俺は事故に遭った際、幸い軽傷で馬車から逃げ出すことができた。ところが、何者かに腹を斬りつけられた。グレゴリー殿、あなたの私兵だ」
「で、でたらめだ! 私はそんなこと知らない!」
「本人を捕らえたら自供した。言い逃れはできない」

 この瞬間、聴衆のざわめきが鋭い非難に変わった。

「侯爵閣下を殺害しようとしただと?」
「なんという恐ろしいことを」
「だが、まあ、あの男爵ならやりそうなことだ」

 周囲から驚きと呆れといった声が上がる。まるでグレゴリーが悪事を働くことがわかっているとでも言うような反応だ。
 追いつめられたグレゴリーは顔を紅潮させて叫んだ。

「違う! 私ではない! 侯爵殿は落石で頭を打ち、錯乱しているのだ!」
「俺は正気だ。錯乱しているのは、己の罪を認めようとしないあなただ」

 フィリクスの冷静な言葉に、場の空気が張りつめた。

< 183 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop