離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「彼女が働いている店はどこだ?」
「突撃でもするのですか」
「違う。様子を見るだけだ」
「似たようなものでは」

 セインは表情変えず淡々とフィリクスにアリシアの仕事先の店の場所を伝えた。

 そして、フィリクスはある日、アリシアが屋敷の裏門から出かけていくところを目撃し、尾行した。
 アリシアは町へ向かう荷馬車に乗り込んだ。
 それを見たフィリクスは複雑な胸中にかられた。

 フィリクスは自身も馬に乗って町へ向かった。

 アリシアのいる店の前でフィリクスはどうやって店内へ入ろうか迷っていた。彼は簡易な白シャツに黒のスラックス、そして旅人風のローブをまとっている。
 わざわざ帽子を目深に被り、使い慣れない鞄まで肩から下げている。完全に旅人に扮したつもりだ。

 扉を開けると店内は明るい笑い声と食器の音で満ちていた。
 この手の大衆食堂や酒場には、遠征先で仲間たちと何度も立ち寄ったことがある。しかし、この町では初めてのことだった。

 ざわめきの中でフィリクスは視線を避けるようにして、ひとり隅のテーブル席に腰を下ろした。すると、それほど経たないうちに店の女主人のメルアがやって来て注文を訊いた。

「なんでもいい」

 フィリクスがそう答えると、メルアはこの店で一番人気の料理を提供すると言った。

 料理を待つあいだそわそわしていたが、突然厨房からアリシアが出てきたので、フィリクスはとっさに帽子を目深に被った。

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