離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアは猛烈に恥ずかしくなり、話題を変えることにした。

「ところで細工師からの進捗は?」
「ほぼ出来上がっておりますわ」
「よかった」

 アリシアが使用人たちと一緒に作った刺繍の品は誰にでも手に取りやすい価格で提供し、細工師に依頼した貴金属類は主に貴族や金持ちの商人を中心に営業してまわるつもりだ。
 細工師が作り上げた品には指輪やネックレスやブレスレットなどの装飾品の他に、宝石箱や紋章入りのブローチなどもあった。

「本当にみんなよく働いてくれたわ。給金の他に何かお礼がしたいのだけど」
「十分ですよ。私たちはみんなアリシア様の人柄に惹かれてそうしたいと思っているのですから」
「ありがとう」

 本当に離婚してこの家を出ていくのが正解なのだろうか。
 アリシアはふとそんなことを思う。
 たとえ夫に冷たくされても、周囲の人間関係には恵まれている。
 それはやはり、みんなで窮地を乗り越えたからだ。

 夫の留守のあいだ、何人もの使用人たちが入れ替わった。
 給金が安すぎて辞めていく者が多かったが、それでも残ってくれた者たちとみんなで協力し合ってこの家を維持してきた。

 アリシアにとって、侯爵家は夫がいなくても大切なものになっている。

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