離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 その夜――。

「何? 部屋が一つしかないだと?」

 宿に到着したフィリクスは、店主の言葉に思わず声を荒げた。
 店主は困ったように眉を下げ、手もとの書類に目を落とす。

「はい。ご予約のお手紙では、ご夫婦様用と、御者様と護衛様方のお部屋が一部屋と……」

 フィリクスは眉間にしわを寄せる。

「部屋は3つ用意するよう、セインに言ったはずだ。あいつが手配を間違えるとは思えないんだが……」

 アリシアは、出発前にエレナが言っていた言葉を思い出す。

『ご夫婦なのですから、遠慮する必要はありませんわ』

 顔が一気に熱を帯び、アリシアは俯く。

(まさか、ふたりで仕組んだの?)

 フィリクスは諦めたように嘆息し、肩をすくめた。

「仕方がない。君が部屋を使うといい」
「え、でも……旦那様は?」
「俺は護衛たちと一緒に寝る。馬車でも構わない」

 そのやりとりの最中、店主が唐突に口を挟んできた。

「あのう、おふたりはご夫婦でいらっしゃいますよね? ならば、何ら問題ないのでは?」

 その言葉に、フィリクスとアリシアは同時に言葉を失い、揃って店主を見つめた。

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