共演した推しが超プロ意識高めアイドルでした

ep1

「おはようございます。佐藤さえさん、入られます。」

控え室のドアを開けた瞬間、眩しいライトとざわめきが一斉に押し寄せた。
「おはようございます。よろしくお願いします。」
深呼吸して笑顔を作る。これが、今や国民的ヒロインと呼ばれる佐藤さえの“ON”スイッチ。

「よろしくお願いします。」

スタッフの笑顔に軽く会釈しながら、心の奥では全く別のことを考えていた。

――佐藤さえ。二十二歳。
数々の恋愛ドラマでヒロインを務め、今年はついに朝ドラの主演に抜擢された。
誰もが羨むシンデレラストーリーの中を歩いている、そう言われている私。
でも、そんな私には――絶対に知られてはいけない秘密がある。

「それでは今からインスタライブの方、始めさせていただきます。」

スタッフの声に、心臓が一瞬だけ早く跳ねた。

「さえちゃーん!こっちこっち!」
満面の笑みで手を振るのは、共演者の女優・みみちゃん。
「す、すみません。遅れました。おはようございます。」
慌てて駆け寄ると、他の出演者たちがすでに席に着いていた。
その中に――彼がいた。

planetのマナト。
彼を見るだけで、胸の奥がぎゅっと縮まる。
そう、私が“推している”人。

「じゃあ、スタートボタン押すね!」

スマホのカメラが赤く光った瞬間、全国に配信が始まる。



「みんなの第一印象聞きたいだって。じゃあ主演のマナトくんの第一印象からにする?」
「そうだね。マナトかぁ。」
たかしさんの声。みんなが笑い合う中、私の心臓だけがドクンと音を立てた。

「さえちゃんからにする?ヒロインだし。マナトの第一印象どうだった?」

「……えーーと……」

困った。推しの印象なんて、語ったら終わる。バレる。絶対に。
「やっぱり、アイドルだなぁって感じでした。」

精一杯の無難な笑顔。
だがマナトがすぐに反応する。

「え?ほんとう?みんな、僕のグループの曲知らないでしょ?」

沈黙。空気がピンと張りつめる。

「え!知ってますよ!」
思わず声が大きくなる。やばい、テンションが上がってる。
「さえちゃん、ほんとう?」
その笑顔、やめて。推しの笑顔を正面から浴びせないで。

「はい!海王星とか天王星とか水星とか木星とか……惑星シリーズ最高ですよね!」

……しまった。言った瞬間、空気が凍った。
共演者もコメント欄も、一瞬で静まり返る。

『え、なにこの女』『ヲタク?』『呪文唱えてたよね?』

やばい、終わった。

「え、なんで知ってるの?」とマナト。
「いや、あ、あの、それはですね……ま、前共演したらいとくんに教えてもらって、調べました!」
苦しすぎる言い訳。

「ははは。らいと、共演者の方々に布教するの好きだもんねぇ。ありがとう。」

コメント欄がすぐに和む。
『らいとくん、さすが』『ヲタクかと思ったじゃん』

――ひぇぇぇぇ。危なかった。
私には絶対にバレてはいけない隠し事がある。
それは、共演者・マナトくんのガチヲタであるということ。
私は、彼に会うために芸能界に入った。
そしてついに、彼のヒロイン役を演じる日が来た。
このことは、マナトくんにも、彼のファンにも――絶対に知られてはいけない。
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