用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~

 エレインたちは今、ヘルナミス国の王宮の一角にある迎賓館にいる。
 今日開かれる、王太子ダミアンとシェリーの結婚披露パーティーにカムリセラ国の代表として出席するのだ。
 指輪を取り戻すべく、エレインも形だけの婚約者として同席することになり、再び自国の地を踏んだ。
(なんとしても、今日指輪を取り戻さないと……)
 指輪を奪われてからすでに二か月が経とうといている。
 アランの部下からの報告によると、シェリーは指輪の力を使って王太子と一緒にハーブづくりに取り組むだけでなく、その力をひけらかし、聖女の到来だと持て囃されているらしい。
 本当であれば二人の結婚式はまだ先だったのに、聖女説が浮上したことで国王はシェリーを自国に留め置くために早めたのだろうとアランが言っていた。
「さ、あとはこのヴェールをかぶって完成です」
 ニコルがヴェールを手にしたとき部屋のドアがノックされ、入室を促すとアランが現れた。
(わぁ……!)
 光沢のあるグレーを基調としたドルマンに、エレインのドレスと同じペールブルーのぺリースを掛けた正装姿に思わず見惚れる。
 普段から身なりのしっかりした格好をしているとはいえ、やはり正装すると見違えるほどにかっこいい。
 かく言うアランも一歩足を踏み入れてエレインを見つめたまま動かなくなった。
「あ、あの……素敵なドレスとアクセサリーをありがとうございます」
(こんなに豪華なもの、私には分不相応すぎて、私に贈ったことを殿下が後悔しないといいのだけど)
 エレインの心配をよそに、アランは近づくとエレインの手を取り指に口づける。
「とても似合っている。思わず見惚れてしまった」
 ストレートな誉め言葉に、エレインの頬が赤く染まる。
「豪華すぎて……恐縮しています」
「きみを着飾れると思ったら嬉しくて、つい気合が入ってしまったみたいだ」
「ありがとうございます。殿下も、とても素敵です」
「ありがとう。ヴェールは俺が着けよう。ニコル、それをこちらに」
 ニコルから受け取ったヴェールをアランがエレインの頭に掛けると、顔が見えにくくなった。
 エレインは、シェリーに命を狙われたこともあり、今回は偽名を使っている。そのため、このヴェールは極力顔の露出は控えようというアランの計らいだった。
「せっかくの顔が見えないのは残念だけど……、きみの美しさがほかの男たちに知れ渡るよりはマシかな」
「お、お戯れを……」
 アランの冗談を聞き流し、エレインは緊張で震える手を人知れず握りしめた。
(上手くいくといいけれど)
 あの高飛車で気の強いシェリーが、すんなりと指輪を返してくれるはずがない。
 事前にアランと打ち合わせはしているが、不安しかなかった。
 そっと、手が温かさに包まれる。
 見上げれば、ヴェール越しにいつもの穏やかな眼差しがエレインを見つめていて、自然と震えも止んでいく。
(殿下がいるんだもの、きっと大丈夫)
「さ、行こう」
「はい」
 エレインはその瞳に応えるように頷いて、一歩踏み出した。
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