この恋、史上最凶につき。
第十五話 夕暮れ、帰したくない
海沿いの遊歩道を歩いていると、
太陽がゆっくりと沈みはじめて、
空の色がオレンジから藍色へ変わっていく。
夕暮れの海は静かで、街の喧騒も遠くて。
まるで、二人だけ取り残されたみたいだった。
時雨くんは、黙ったまま。
でもその沈黙は、怖いものじゃなくて――
胸の奥がくすぐったくなるほど温かい。
「雪菜」
ゆっくりと名前を呼ばれた。
その声は、風より静かで、
海より深かった。
「……ん?」
「今日、楽しかったか?」
「うん。すごく」
「そっか……」
その瞬間、
時雨くんの指が私の指をきゅっと締めた。
さっきよりも強く、
離されるのを嫌がるみたいに。
「雪菜が楽しそうだと……俺、変になる」
「変って?」
「もっと見たくなる。
もっと隣に立ちたくなる。
もっと……俺だけ見ててほしくなる」
夕暮れの光が、時雨くんの横顔を照らす。
まっすぐで、嘘が一つもない目。
「俺さ、分かったんだよ」
「何が?」
「雪菜は……俺の未来だって」
「っ……」
「だから、一秒でも離したくねぇ。
デート終わるの、マジで嫌だ」
胸がぎゅっと掴まれたみたいに熱くなる。
時雨くんは、私の頬にかかった髪を
そっと指で払ってくれた。
「……雪菜。夕暮れ、似合うな」
「そ、そんなこと……」
「ある。
誰にも見せたくねぇくらいに、綺麗」
言葉が海の波音と混ざって、
胸に深く沈んでいく。
そして。
「……もうちょい歩こうぜ。
まだ終わりにしたくねぇ」
そう言って、彼は私の手を握り直した。
まるで、心まで繋ぎ止めるみたいに。