この恋、史上最凶につき。

第十六話 テストと独占欲



 1週間なんて、ほんとうに一瞬だった。

 今日からテスト。
 朝のホームルームが終わると同時に、教室の空気がぴりっと張り詰めた。

「雪菜。大丈夫か?」

 隣の席の時雨くんが、声を潜めて覗き込んでくる。
 普段は不良の総長みたいな空気をまとってるのに、こういう時だけ妙に優しい。

「う、うん……勉強、一応したし」

「したし、じゃなくて。俺がさせた」

「そんな言い方……!」

 昨日も、時雨くんの家で勉強会。
 途中、ソファでくっついて休憩したせいで集中が削られたけど……いや、削ったのは時雨くんだけど……。

 チャイムが鳴り、試験監督が入ってくる。

「始める前に。カンニング行為は――」

 説明を聞きながらも、私は横目で時雨くんを見る。
 彼はペンをくるくる回しながら、ちらっと私の顔を見て、ニッと笑った。

「雪菜。俺が昨夜教えたところ、絶対出るから。落とすなよ」

「し、しないよ!」

「信じてる。……てか落としたら、補習中ずっと迎えに来るけどな」

「なんで!?」

「心配だから」

 もう……終わる前から疲れる。



 「はじめ!」の合図とともに、いっせいに紙をめくる音が教室に響く。

 目の前の問題を見る。
 ……あ。出てる。
 時雨くんが「ここ重点な」って言ってたところ。

(よかった……!)

 必死にペンを走らせていると、横からじっとした視線を感じた。

 ……時雨くんだ。

 なに見てるの、集中してよ……と思って小声で囁く。

「時雨くん、前見て……」

「いや、雪菜、手震えてんぞ? 緊張してんのか」

「緊張はしてるけど! 試験中に話しかけないで……!」

「かわいくてつい」

「は、はぁ……!」

 監督の先生がこっちを見る。
 まずい。

 時雨くんは舌打ちするように息を吐き、しぶしぶ前を向いた。

(集中させて……!)

 だけど、どうしても意識してしまう。
 だって、さっきの目が。

 ――“俺が守ってるから、安心して解けよ”

 と言ってるみたいで。



「はい、終了―。答案は前の席の人に回してくださーい」

 ふぅ、と息を吐く。
 終わった……!

「雪菜」

「な、なに?」

 提出を終えた時雨くんが、机に肘をついて私に寄る。

「頑張ったな」

「……ありがとう。時雨くんが教えてくれたから」

「おう。……で?」

「で?」

「ご褒美。ほしいだろ?」

「な、なにその言い方!」

 頬が熱くなる。
 彼はゆっくり指先で私の髪を摘まみ、目を細めた。

「このあと、昼休み。屋上来い。
 二人きりで、ちゃんと褒めてやる」

「ふ、二人きり!?」

「当たり前。雪菜は――」

 声が低くなる。

「俺に褒められて、生きてけ」

「な、なにそれ……!」

「落としても迎えに行く。
 受かっても褒める。
 ……雪菜の全部、俺の範囲内だから」

 窓の外。
 光にきらめく校庭に、胸がきゅっとなる。

 ――テストより心臓に悪いよ、時雨くん。

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