この恋、史上最凶につき。
第十九話 黒焔基地
倉庫に入った瞬間、喧騒がぴたっと止まる。
「総長、連れてきたんすね」
「今日も雪菜ちゃん一緒かぁ〜」
笑ってるけど、誰も近づいてこない。
理由は、時雨くんの“圧”があまりにも露骨だから。
私は時雨くんの後ろを歩きながら、
なぜか胸がくすぐったくなった。
(……ここまで守るって、普通じゃないよね?)
「狼牙がまた動いててよ」
「で、聞いたんだけどさ……」
綾斗くんがちらっと私を見る。
「“総長が守ってる女がいる”って噂、
向こうにも広まってんだわ」
「……っ!」
全員の視線が時雨くんに集まる。
その瞬間。
――空気が一変した。
「それ……誰が流した?」
低い声。
冷たくて、でもどこか震えてる。
「し、時雨……」
「まあまあ落ち着けって」
「落ち着いてねぇよ」
彼は机を軽く叩き、私を振り返る。
「雪菜に手出すって話が、いちばんムカつくんだよ」
その言い方が――
怒りよりも、“大切すぎて怖い”って感情に聞こえた。
(そんな顔……どうして私に?)
「総長ってさ……さすがに気づいてると思ってたけど」
「雪菜ちゃん、総長に好きって言われてるようなもんじゃね?」
「は!? 言ってねぇだろ」
「いや言ってんだよ」
「態度で全部バレてる」
「総長が“人として好きになった女”なんて初めてだし」
時雨くんは一瞬固まり、
耳まで赤くなるという珍事を起こした。
「……は? 俺、そんな分かりやすい?」
「めっちゃ分かりやすい」
全員が即答するの、面白すぎる。
メンバーが少し離れた瞬間、
時雨くんがため息混じりに私へ向き直った。
「……なぁ雪菜」
「う、うん?」
「俺、お前のこと……好きなんだわ」
あまりにも真っ直ぐで、
不器用で、
でもどうしようもなく本気の声。
「だから、守るのは当然なんだよ。
弱点とかじゃなくて……」
少し間があいて。
「俺が雪菜を好きだから、離れらんねぇだけ」
(……え?
こんなに真剣に、私のこと……?)
胸がぎゅっと縮む。
“まだ好きって分からない”はずなのに、
苦しいくらい胸が熱くなる。
「総長〜、狼牙の件どうすんの?」
「決まってんだろ。
雪菜に関わる可能性があるなら――潰す」
「やっぱ好きじゃん!!」
「黙れ綾斗」
でも、時雨くんの視線はまっすぐ私だけを射抜いていた。
「雪菜。
お前が俺の気持ちに気づくまで待つけど……」
ゆっくりと近づく。
「好きかどうか分かんなくても、
俺のそばにいてくれればいい」
「……っ」
「好きになるの、急がなくていい。
ただ……誰にも渡す気はねぇから」
黒焔の歓声が上がるが、
私の耳にはもう何も入らなかった。
ただ、彼の言葉だけが胸で響いていた。