この恋、史上最凶につき。

第二十四話 夏祭りの夜



 夏の夜の空気は暑いのに、どこか少し切なくて。
 神社へ向かう道の先に、色とりどりの提灯と屋台の光が揺れていた。

「雪菜、こっち」

 浴衣姿の時雨くんが、私の手を軽く引く。
 いつもより落ち着いて見えるのに、どこか少し照れてるようにも見えた。

「今日の時雨くん、かっこいい……」

「っ……言うなよ、照れるだろ」

 低い声のくせに耳はほんのり赤い。

 私は水色の浴衣。
 時雨くんは紺地に細い模様の入った落ち着いた浴衣。

(……似合いすぎじゃない?)

「雪菜こそ、反則なぐらい可愛いけどな」

「えっ」

「本気で言ってる。
 今日の雪菜、誰にも見られたくねぇくらい」

 そう言うと、時雨くんは当たり前みたいに手を繋いだ。
 指の絡め方が、いつもよりずっと甘い。

     

 屋台を歩いていると、同じ学校の男子たちとすれ違う。

「あれ? 雪菜ちゃん?
 めっちゃ可愛いじゃん、その浴衣」

「写真撮っても——」

「無理」

 時雨くんの声が、静かで鋭い。

 笑っているのに、目は全然笑ってなかった。

「雪菜は俺と来てるんだよ。
 ……関係ねぇやつが声かけんな」

「えっ、ご、ごめん!」

 男子たちはあっという間に去っていった。

「時雨くん……ちょっと怖かったよ」

「当たり前だろ。
 雪菜がどれだけ可愛いと思ってんだよ。
 ……他のやつに見せたくねぇ」

 そう言って、繋いだ手をぎゅっと強くする。

「でも……嬉しい。ありがとう」

「……ならいい」

     *

 金魚すくい、かき氷、りんご飴。
 浴衣で並んで歩くだけで、全部が特別に感じた。

「なぁ雪菜」

「ん?」

「かき氷、口についてる」

「え?」

 指で取るのかと思った瞬間——

 時雨くんが、少し近づいて。
 唇が触れた、気がした。

「……とれた」

「っ……!! 時雨くん!? ひ、人前……!」

「平気だろ。花火の音で誰も見てねぇよ」

(いや絶対見えてた……!)

 恥ずかしいのに、胸が苦しいほど嬉しい。

     *

 夜空に花火が打ち上がる。
 大きく開いた光が、浴衣の柄を照らす。

「綺麗……」

「……ああ」

 時雨くんは花火ではなく、私だけを見ていた。

「雪菜」

「な、に?」

「好きだよ。
 誰よりも、お前が」

 夜風に紛れた低い声。
 胸が一瞬で熱くなった。

「……私も。
 時雨くんが好きだよ」

 言った瞬間、時雨くんが少し息を呑む。

「っ……そんな顔で言うなって……
 本気で抱きしめたくなる……」

「してもいいよ?」

「……ッ、言ったな?」

 浴衣の袖越しに、強く手を握られる。

 花火の音が響く夜なのに、
 時雨くんの声だけがやけにはっきり聞こえた。

「……雪菜。
 今日のこと、一生忘れねぇから」

 その言葉は、花火よりずっと眩しかった。
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