この恋、史上最凶につき。
第二十七話 総長の彼女
放課後の空気が少し冷え始めた時間。
時雨くんに連れられて来たのは、黒焔の基地だった。
バイクのエンジン音が鳴り響き、
仲間たちの声が飛び交う。
「お、総長来た!」
「……あれ、伊達さんも一緒?」
「てかさ、最近マジで離れないよな」
ちらっと向けられる視線。
でも、もう慣れてきた。
時雨くんは当然のように私の腰に手を回してくる。
「……総長、堂々すぎんだろ」
「リア充爆発案件」
黒焔の仲間たちがひゅーっと茶化した声をあげると、
時雨くんが無表情のまま言った。
「は? 何が悪いんだよ。
——俺の彼女なんだから当然だろ」
(……!)
“俺の彼女”って、みんなの前で言われるの、まだ慣れない。
耳の奥が熱くなる。
「っ……時雨くん、ちょっと……!」
小声で注意しても、
時雨くんはまったく聞く気がなさそうだった。
むしろ——
腕を回す力が少し強くなる。
「雪菜、離れんなよ。
……ここじゃ特に」
その低い声に、
背筋がぞくっと震える。
*
黒焔のリーダー陣が集まり、作戦会議が始まった。
私は少し離れた場所で待っていたのだけれど——
「伊達さーん、飲み物いる?」
「総長の彼女なんでしょ?仲良くしよ」
優しそうに見えたけど、
その笑顔の下にどこか探るような気配を感じた。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
そう言った瞬間——
「……何してんだよ」
時雨くんが真後ろから腕を伸ばし、
私の肩をぐいっと引き寄せた。
「と、時雨くんっ!?」
「雪菜に話しかけんな」
仲間の一人が苦笑する。
「いやいや総長、俺ただ飲み物——」
「いらねぇよ。
雪菜に近づいたこと自体がムカつく」
声は低く、刺すほど鋭い。
けれど抱く腕だけは、私を壊れないように包むみたいに優しい。
(……また、独占してる)
頬が熱くなるのを止められない。
「総長、重症だな……」
「彼女できてからヤバさ増してるぞ」
「うるせぇ。
俺の雪菜は、俺だけ見てりゃいいんだよ」
「っ……!」
その瞬間、
仲間たちが一斉に「はいはい」とため息をつく。
でも本気で止める人は誰一人いなかった。
黒焔の誰もが、
時雨くんが私をどれだけ大事にしているか知っているから。
*
会議が終わると、
時雨くんは私の手を自然に取って歩き出した。
「……雪菜」
「なに?」
「今日、あいつらの前でずっと我慢してた」
「え?」
立ち止まった時雨くんが、
私の手を自分の胸に押し当てる。
「触れたいし、抱きたいし……離れたくねぇのに、
“総長の顔”して耐えてんだよ」
「……!」
心臓が跳ねる。
「帰ったらさ。
……ずっと、俺の隣いろよ」
「……うん」
その瞬間、
彼の表情が少し緩んだ。
黒焔の総長でいる時とは全然違う、
私だけが知ってる顔。
(……好き。こんな時雨くんが、いちばん好き)
基地の喧騒の中、
彼の指が、そっと私の指に絡む。
まるで
“離す気、ゼロ”