魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
キョウはそこで転んでいる女性なんて、もはや眼中にないように腕の中の私を見る。

「こうやって、斜めにボードを滑らせて。
そうしたら、そこまでのスピードは出ないから」

分かった?と、彼の黒曜石の瞳が間近で私を覗き込む。

「そこー、危険な走行は止めなさいっ」

私たちを見た、スキー場の人がスピーカーで警告を発した。

「危険なのは勝手に突っ込んでくるヤツだろ」

キョウはぼそりと自己中心的な文句を呟いてから、ゆっくり滑りを止め、触れるだけのキスを落としてから、再び私を雪の上に置く。

「じゃあ、ユリアが先に行くといい。
大丈夫、心配いらないよ」

ここまで来ると、もう、ちょっとした催眠術だ。

何度も何度も、耳の中に注ぎ込まれる優しさをたっぷりまぶした「大丈夫」という低い声。

悪魔の囁き、とは、このことを指すのだろうか?

言われて見れば、周りで楽しそうに滑っている普通の人たちが沢山いるわけで。

私にだって出来るような気になってくる。

「無理だったら木の葉で降りていくってのもあるけど」

「いい、滑ってみる」

そうだそうだ。
めちゃくちゃ鈍いわけじゃあるまいし、私にだけ滑れないってことは無い、はず。

いつの間にか度胸が据わった私は、深呼吸をして左足を下にしてやや左に向かって滑っていく。

「上手い上手い」

キョウは子供を褒めるかのように、私をベタ褒めし、華麗に私の目の前を滑っていく。

「こっちにおいで」

誘われるがままに、今度は右側に向かって板を滑らせる。

それでも、3度くらい転んで、ようやく、緩やかなスピードに身体が慣れてきた頃。

山のふもとに到着していた。
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