雨の闖入者 The Best BondS-2
第一章『閉ざされた港に悪夢が降る』
1.
 薄紫を思わせる不気味で暗い空。
 小粒の雨が人々が持つ希望を蝕むように降り続く。
 全てが色を無くし、灰色に染め上げられる町並み。
 停泊したままの船。
 看板だけがポツリと立っている馬車乗り場。
 夕方だというのに、行商している人の姿も、買い物に来ている若い娘の姿も、仕事を終えた中年の男性の姿も。
 あるはずの光景が、何一つ存在しない。
 薄暗い家の中から聞こえるのは啜り泣き。
 暗雲が立ち込めた空は、まるで此処に住む人たちの心を覆った不安そのもののようで。
 降り止まない雨。
 治まらない不安。
 時折吹く、女の泣き声のような風の音が恐怖を運ぶ。
 それは、助けを請うてるようにも、暗い世界への道連れを探しているようにも聞こえた。
 たった三ヶ月。
 たった三ヶ月で変わり果てた港町ユーノに辿り付いたレインコート姿の三人組は唖然として町を見渡した。
「こりゃあ……どーゆーこった?」
 雨が最も似合わない男、ゼルが発した言葉さえも雨が響かせずに掻き消していく。
「どうもこうも……見たまんま、辛気臭いよね」
 どうでもいいとばかりの声を発したのは美しい青年、ジスト。
 その横で、縁起でもない言葉を発したのはまだ幼さの残る顔立ちの少女、エナだった。
「……お通夜?」
 まさしく少女の言ったような雰囲気ではあったのだが、手を叩いて同意出来るような内容ではなかった為、ゼルが呆れてエナを諫める。
「ロクでもねェこと言うんじゃねェよ」
「疫病でも流行ったかなー?」
 諫めたゼルの努力を無にした青年は悠長に鼻の頭を掻いている。
「んな話は聞いてねンだろ?」
 隣町とはいえ、長年情報屋で生計をたててきたジストには近隣の情報など寝ていても入ってくる。
 だが、ジストはその問いには答えなかった。
「……」
「……船、出てないみたいだね」
 彼らは南の大陸に向かうべくトルーアからこの港町にやってきたわけだが。

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