雨の闖入者 The Best BondS-2
最終章『長い闇が終わる時、短い奇跡が弧を描く』
最終章『長い闇が終わる時、短い奇跡が弧を描く』
1
「それ」は、かつて扉だったものの木片を浴びて飛び込んできた。
「それ」は、禍々しいまでの狂気を目に宿し、
「それ」は、粘り気のある涎を口元から地面に垂らした。
夢の世界に存在し、現実を喰らう生き物。
禍々しいまでの狂気と食欲を目に滾(タギ)らせた大きな獣。
まるで黒曜石の岩が意志を持って動き出したかの如き体躯は驚くべき俊敏さを兼ね備え、彼らを死の淵へと追い詰める。
「散っ々追い回してくれたけど……ここらで年貢の納め時。収める年貢も無いだろーケドねっ」
エナが長いヌンチャクを自由自在に操り、両腕を突っ張る形で構えた。
「体で払ってもらいましょーね」
少し斜めに銃を構えたジストが茶目っ気を込めて返す。
「オレの足喰おうとしやがって……ぜってー許さねェぞ」
戦いを目の前にしたゼルは目を輝かせながら剣の柄を両手で強く握り締めた。
武器を手にした彼らの危険度を理解したのか、獣は飛び込んできたまま一歩も動かない。
低く唸り、真ん中に立つエナを真っ直ぐに見据えている。
忌々しいほど醜悪な獣の風貌にも臆することなくエナは笑う。
「調教、してあげる」
あ、それジストさんの得意分野、とほざく声を聞きながらエナは床を蹴って走り出した。
幾度となく、命を危険に晒してきた。
一人でだって、立ち向かってきた。
怖いと思ったことは一度や二度じゃなかったはずだ。
立ち向かう時はいつだって怖い。
立ち向かってきたのは逃げるという選択肢が無かったからだ。
そのことに恐怖を覚えるなという方が難しい。
でも、今この時ばかりは怖くなかった。
だって、一人じゃないから。
背中には目的を同じとした同胞達がいる。
生きることに貪欲な奴等がいる。
だから、自分の身に何が起きても、大丈夫。
怖がらずに、立ち向かえる。
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「それ」は、かつて扉だったものの木片を浴びて飛び込んできた。
「それ」は、禍々しいまでの狂気を目に宿し、
「それ」は、粘り気のある涎を口元から地面に垂らした。
夢の世界に存在し、現実を喰らう生き物。
禍々しいまでの狂気と食欲を目に滾(タギ)らせた大きな獣。
まるで黒曜石の岩が意志を持って動き出したかの如き体躯は驚くべき俊敏さを兼ね備え、彼らを死の淵へと追い詰める。
「散っ々追い回してくれたけど……ここらで年貢の納め時。収める年貢も無いだろーケドねっ」
エナが長いヌンチャクを自由自在に操り、両腕を突っ張る形で構えた。
「体で払ってもらいましょーね」
少し斜めに銃を構えたジストが茶目っ気を込めて返す。
「オレの足喰おうとしやがって……ぜってー許さねェぞ」
戦いを目の前にしたゼルは目を輝かせながら剣の柄を両手で強く握り締めた。
武器を手にした彼らの危険度を理解したのか、獣は飛び込んできたまま一歩も動かない。
低く唸り、真ん中に立つエナを真っ直ぐに見据えている。
忌々しいほど醜悪な獣の風貌にも臆することなくエナは笑う。
「調教、してあげる」
あ、それジストさんの得意分野、とほざく声を聞きながらエナは床を蹴って走り出した。
幾度となく、命を危険に晒してきた。
一人でだって、立ち向かってきた。
怖いと思ったことは一度や二度じゃなかったはずだ。
立ち向かう時はいつだって怖い。
立ち向かってきたのは逃げるという選択肢が無かったからだ。
そのことに恐怖を覚えるなという方が難しい。
でも、今この時ばかりは怖くなかった。
だって、一人じゃないから。
背中には目的を同じとした同胞達がいる。
生きることに貪欲な奴等がいる。
だから、自分の身に何が起きても、大丈夫。
怖がらずに、立ち向かえる。