心臓に囚われた、ボクの心。
「今日も屋上行ってきます」
「行ってらっしゃい」
この会話が、あの屋上に行くことが私の日課となっていた。
屋上にはいつも階段を使う。最近は階段を少し登っただけで息切れするから疲れるな…いつも通り階段を登ろうとすると足が滑りそのまま床に倒れそうになる私。痛みを覚悟して待っていたがなかなか痛みが来ることはなく…
「…っ」
「…!!」
「よかった、間に合った…大丈夫か?」
「は、はい…っありがとうございます」
「はは、これからは気を付けてね」
そう遠ざかる先生の背中を見送り屋上への階段を登ろうとすると、なにかが落ちていた
「…ん?これは?」
さっき私を助けてくれた先生のネームプレートが落ちていて、落ちそうになった私を助けた時に落ちてしまったんだろう。
「朔摩、先生か…」
「──これ!落としましたっ」
「あ、これ…ありがとう」
「…いえっ」
──忙しいとは分かってるけれどどうしても質問をしたかった
「朔摩先生って…樹、樹くんのお父さんですか?」
「樹のこと…知っているのか?」
「は、はい…いつも樹くんと仲良くさせてもらってますっ」
「椎名千歳といいます…」
「ははっ、そんなかしこまらなくていいよ。そうか…君が千歳ちゃんか」
「え、私のことを知ってたみたいな…」
「あぁ知っていたよ、樹がいつも話していたからね」
「…私がこの職業だから樹も自然とこの職業を引き継ぐと言っていてね…でもあんまり乗り気じゃないような気がしたんだが最近の樹は“治したい病気があるから僕が医者になるんだ”って勉強張り切っているんだよ」
「そ、そうなんですか…」
“治したい病気”というのは私の病気のことだろうか…?
「千歳ちゃん、樹を、よろしく頼んだよ」
「へ…!?」
「君が思っている以上に樹は君のことを気にかけているんだ」
「……」
「お、っと失礼…私は会議があるからここで失礼するよ」
「あ、はいっ、ありがとうございました」
そうして朔摩先生 ー樹のお父さんは奥の会議室へと行った。
「……屋上、行こっと」
忘れかけていた約束を思い出し再び屋上へと続く階段をのぼり屋上に続くドアをガチャリと開ける。空は毎日同じような天気じゃなくて、昨日は快晴だった代わりに今日は灰色の空だった
目を瞑り風を感じる──
私の横を吹く風、灰色の空に透き通る風が少し冷たくて…。
「早いね、もう来てたんだ?」
「…樹、さっきね、樹のお父さんと会ったの」
「え?僕のお父さんと?なんか言ってた?」
「さっき私が階段踏み外しちゃって落ちそうなところを助けてくれたの。…そのときに樹のお父さんが、医者になりたいってこともその理由も」
「……」
「……樹、ありがとうね」
───こんな私のためにそばに居てくれて、なんて言うつもりは無い。ただ素直に感謝を伝えたかった
「…僕の方こそ、夢を持たせてくれてありがとう」
──お互い自然に体の距離が縮まり日陰の集まったアスファルトの上、お互いの手が重なり合っていた──
「……」
「…っ」
ドキドキと鼓動がうるさいのは病気のせいなんかじゃない。不安な私の隣にずっと居てくれて、優しい言葉を使って慰めてくれて、私の病気を治そうとしてくれて。
最初は同じ本が好きってだけの接点だったのにいつしか樹が特別になっていた…。
これ以上樹を好きになれば間違いなく私の鼓動はもっとうるさくなるのに…止められないこの気持ちはどうしたらいいの?
「いつ──」
私が話そうとしたのを見透かしたように樹が慌てて口を開き
「僕ね、医者になる」
「え?」
「頑張って医者になって千歳の病気治すから…だから…」
重なり合ってる樹の手により一層力が込められる。いつもの優しさも残しつつ熱い気持ちがこの手から伝わる
「…好きだ、千歳」
───甘く、温かく、そっと静かに弾けた。
「…だから、僕にその命預けて」
───弾けたこの想いの行方はどこだろう、必死に探して…それでも君しか居ないと叫んだ…
「う、ん…っ」
灰色だった空が再び青色へと光を差していく…
樹も、私も、お互い重なって握られた手に力を入れる。また自然とゆっくりお互いの顔が近づいていって……
これからキスするんだってことを理解するのにはそう時間は要らなかった。キスしてる間、私は病気なのに、“もうすぐ、死ぬ運命なのにいいのか”と考えていたが離れていく唇を追いかけ、さっきより少し深いキスをする
──私たちは友達だ。…付き合うのは私の病気が治ってからと約束をした
「千歳」
愛おしそうに、恥ずかしそうに私の名前をそっと呼ぶ。
「樹…」
そんな樹に合わせて私もそっと名前を呼ぶ───
この幸せな時間がいつまでも続いていけばいいと思っていた。