音に溺れる



『ーー共感覚、って言うらしいよ』

いつか彼が、どこか他人事のように教えてくれた言葉が、ふいに脳裏をよぎる。

『音に色がついて見えたり、数字に色がついて見えたりな』

ステージから照りつける照明の光が、ひどく熱くて、眩しい。

マサキの叩き出す、心臓の鼓動のように跳ねるスネアドラム。それに導かれるように、日向の指先から放たれる踊るような旋律が、クアトロの巨大な空間を一瞬にして支配していく。



ーーあぁ。

なんて濁りのない、透明なブルー。



私には、特別な才能なんてない。共感覚なんていう、小難しい感覚も持っていない。

それでも今、この熱狂の渦の中で。私の視界を満たしているのは、痛いほどに美しくて、気高くて冷たい、透き通るような青色だった。

そして、その完璧な青の、真ん中には。

あの人が唯一、狂おしいほどに恋してくれた『私の声』があるのだ。

熱を帯びたアウトロが静かに鳴り止み、会場が割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。

私はマイクスタンドを両手でぎゅっと握りしめ、荒い呼吸を整えながら、フロアを埋め尽くした800人の観客を、ひとりひとり確かめるように見渡した。

「ーー次が、ラストの曲です」

私の声に、フロアから悲鳴にも似た声が上がる。
視界が少しだけ滲みそうになるのを必死に堪えて、私はまっすぐに前を向いた。

「満員御礼で……本当に、嬉しかったです。私たちの音楽を見つけてくれて。こんな、夢のような舞台に連れて来てくれた、ここにいる皆様に……心から、感謝します」

言葉を紡ぎながら、私はそっと後ろを振り返る。

そこには、鍵盤に静かに指を置いたまま、感情の読めない、けれど確かに熱を帯びた瞳で私を見つめ返す日向がいた。

これが最後。私たちが一緒に作れる、最後の音楽。
私が焦がれた、あの冷たくて気高い『青』への、すべての痛切な想いと執着を込めて。

私は再び前を向き、マイクに口を近づけ、祈るようにそっとその名前を口にした。




「是非存分に酔いしれて……いいえ、溺れていってください。

どうか一生、忘れない記憶になりますように。



ーー”Ephemeral Blue(刹那の青)”」








Presented by Sound Jam
Last Live “音に溺れる”
Fin.




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