音に溺れる



『ーー共感覚、って言うらしいよ』

いつか彼が、どこか他人事のように教えてくれた言葉が、ふいに脳裏をよぎる。

『音に色がついて見えたり、数字に色がついて見えたりな』

ステージから照りつける照明の光が、ひどく熱くて、眩しい。

マサキの叩き出す、心臓の鼓動のように跳ねるスネアドラム。それに導かれるように、日向の指先から放たれる踊るような旋律が、クアトロの巨大な空間を一瞬にして支配していく。



ーーあぁ。

なんて濁りのない、透明なブルー。



私には、特別な才能なんてない。共感覚なんていう、小難しい感覚も持っていない。

それでも今、この熱狂の渦の中で。私の視界を満たしているのは、痛いほどに美しくて、気高くて冷たい、透き通るような青色だった。

そして、その完璧な青の、真ん中には。

あの人が唯一、狂おしいほどに恋してくれた『私の声』があるのだ。

熱を帯びたアウトロが静かに鳴り止み、会場が割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。

私はマイクスタンドを両手でぎゅっと握りしめ、荒い呼吸を整えながら、フロアを埋め尽くした800人の観客を、ひとりひとり確かめるように見渡した。

「ーー次が、ラストの曲です」

私の声に、フロアから悲鳴にも似た声が上がる。
視界が少しだけ滲みそうになるのを必死に堪えて、私はまっすぐに前を向いた。

「満員御礼で……本当に、嬉しかったです。私たちの音楽を見つけてくれて。こんな、夢のような舞台に連れて来てくれた、ここにいる皆様に……心から、感謝します」

言葉を紡ぎながら、私はそっと後ろを振り返る。

そこには、鍵盤に静かに指を置いたまま、感情の読めない、けれど確かに熱を帯びた瞳で私を見つめ返す日向がいた。

これが最後。私たちが一緒に作れる、最後の音楽。
私が焦がれた、あの冷たくて気高い『青』への、すべての痛切な想いと執着を込めて。

私は再び前を向き、マイクに口を近づけ、祈るようにそっとその名前を口にした。




「是非存分に酔いしれて……いいえ、溺れていってください。

どうか一生、忘れない記憶になりますように。



ーー”Ephemeral Blue(刹那の青)”」








Presented by Sound Jam
Last Live “音に溺れる”
Fin.




< 157 / 157 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
医大生 女子校育ち純粋系女子 中野 桜 Sakura Nakano × 大学病院循環器内科 医師 プロテスタント教会牧師の一人息子 御崎 日向  Hinata Misaki 医師を目指すの女の子と、彼女を見守る医師が、ひっついたり離れたりしながらも最後は幸せになる話です。 読んでいただけたら、嬉しいです。 *ひっそり蛇足エピローグ 『その後の話 あるいはこれから始まる話』を別で公開中です。 興味がある方はプロフィールから飛んでみてください。 ※筆者末端コメディカル医療職+研究者で全く知識が無いわけではないのですが、 一部医療知識および聖典の解釈において足りない知識を補うために生成AI使用してます。 苦手な方はお帰りくださいませ。
おやすみなさい、いい夢を。

総文字数/52,887

青春・友情101ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ずっと一緒に、いられると思っていた。 中高一貫女子校育ち 中野 桜(17) × 高校2年 心臓病患者 宮崎 理緒(17) × 大学病院 循環器内科医 御崎 日向(29) 『桜吹雪が舞う夜に』 理緒と桜の話を中心とした前日譚です。 糖度控えめ。 ※前日譚ですが、こちらからでも楽しめます。
表紙を見る 表紙を閉じる
『桜吹雪が舞う夜に』 蛇足のようなエピローグです。 1ページのみです。 その後の2人を少しだけ覗きたい方はどうぞ。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop