後悔しない、ひとつのこと
廉のお父さんから指定された場所は、廉の家だった。

インターホンを押すと、廉のお父さんが迎えてくれた。

笑っているとも、笑っていないともとれるような表情で。

「いらっしゃい、爽さん」

「....お邪魔します」

廉の家は一軒家で、庭もあったが植物は枯れたままだった。

私はそんな庭が見える居間に座っている。

廉のお父さんと向かい合って。

廉は離れた場所で私たちの様子を伺っている。

「手土産もなく、すいません」

頭を下げると、少し間が空いて上から声がした。

「そんなもんどうだっていい」

その声はとても低く、怯んでしまう。

でも、ここで怯むわけにはいかない。

私は絶対にお父さんと話をする。

「お父さん」

意を決して呼びかける。

「お父さんと呼ばないでくれ。明人だ、明人と呼んで欲しい」

明人さんは苦しそうな表情を浮かべ、そう告げる。

「廉をたぶらかしたのはお前か」

たぶらかした、か。

そんなふうに言われるとは思ってなかった。

「廉はひとりでいいんだよ。誰も一緒にいなくていいんだ。そうしたらあいつも泣かない」

明人さんの言葉からは、廉への愛が感じられた気がした。

「明人さんは....廉が嫌いなわけじゃない。むしろ好きですよね」

「なにを.....いって...」

「明人さんは、わからなくなってるだけじゃないんですか?」

「は?」

私は同じ経験をしていないし、子供すらいないけど。

なぜか自信があった。

明人さんは苦しんでいる。そう思った。

「廉のせいじゃないとわかっているのに、納得できなくて。苦しくて、辛かったんですよね。そして廉への対応もわからなくなった。そうではありませんか?」

「なんで、それを....」

明人さんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「明人さん、廉への思いを...愛情を、廉に伝えてあげてください。伝えないと伝わらないんです。いくら自信がなくても、どんな想いがあったとしても。伝えなきゃ始まらないんですよ。廉だって....待ってると思います」

明人さんはゆっくりと、でもしっかりと頷いた。
< 16 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop