後悔しない、ひとつのこと
涙は流れなかった。

泣く資格がない。

そう思ったから。

ごめん、爽。

やっぱり俺が幸せになるのはダメみたいだよ。

泣くべきじゃないんだ。

笑うべきでもない。

人に合わせて生きなきゃいけなかった。

なのに、幸せを望んでしまったから。

一瞬でも、許された気になってしまったから。

「さわ......爽」

噛み締めるように名前を呼ぶ。

でもやっぱり答えてはくれない。

「廉くん」

「はい」

立ち上がり答える。

お母さんはなにか物言いたげに俺を見つめた。

でも何も言わなかった。

「爽のお葬式はまた来てくれる?」

ただそれだけ言って。

「もちろんです。行かせてください」

「本当にありがとう。他のお友達には先生に伝えてもらうから、気にしないでね」

俺から伝えさせるのは酷だと思ったのだろう。

その優しさにも爽を感じて、胸が締め付けられた。

「そろそろ帰りなさい。もう21時だよ」

時間の流れは早くて。

お医者さんが初めて会話に入った。

これまでずっと何も言わず、見守ってくれていた。

「ありがとうございます。失礼します」

そう告げて、部屋を出ようとする。

「廉くん」

優しく声がかけられた。

「どうかしましたか」

お母さんは笑って言う。

「今度でいいから、爽のお話....聞かせてくれる?」

返事が出来なかった。

自分なんかより、もっと適任がいるんじゃないか。

「できるならあなたから聞きたいの」

俺の考えを見透かしたように言う。

「ぜひ」

そう答えることしか出来なかった。
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