後悔しない、ひとつのこと

最期 - 爽side -

目を開けると、お医者さんが私を覗き込んでいた。

「爽ちゃん?わかる?真矢 燈」

燈さん。

お母さんの同期のお医者さんで。

お母さんがスマホの画面を愛おしそうに眺めている時、連絡している相手の人。

「燈....さん。おかあ...さん..は」

「もう一命を取り留めてるよ」

よかった...お母さんが助かったなら

目は開いているけど、気を抜いたら閉じてしまいそうで。

体にも力が入らない。

「燈さん、お母さんをよろしくね」

燈さんは一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに笑って言った。

「もちろんだよ」

きっと私の命が尽きかけていることをわかってくれているから。

それを私がわかっていることも。

「あと.....」

.....廉

「れん....て..こに........ごめん..ね......って...いっ..て__」

それ以上は話せなかった。

もう口も動かない。

瞼も重すぎて開かない。

でも、最後に見えた景色は、廉と並んで歩いている景色だった。




私はお母さんに直接 ''ありがとう'' が言えなかった。

お母さんのいなくなった玄関につぶやくだけで。

''大好きだよ'' それも言えなかった。

恥ずかしくて。

今更だけど、すっごく後悔してる。

廉に偉そうに言っておいて、自分もできてなかったんだ。

思った時に思ったことを伝えること。

廉にも結局言えなかった。

顔を上げてくれてありがとう。

私を拒まないでくれてありがとう。

___大好きです。

あなたが感情のままに笑って。

自由に生きてくれるだけで嬉しいんです。

全部全部、伝えたかった。

でも言えなかった。

すっごく言いたかったことだけど。

これからも言えない。

ごめんね、廉。
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