僕と影~生首に出会う

30.足

 手を離すと、生首は踵を返して自分の足で歩いて行った。

 一歩ごとに薄くなって、そして消えた。

 僕と影は黙ったまま、生首が消えた先を見ていた。


「帰るぞ」

「うん」


 影に促されて車に戻る。

 車では、父さんが本を読みながらうとうとしていた。


「戻ったか。うん、じゃあ行こう」

「はあい」


 父さんの実家の神社で、おじいちゃんにお説教されながらお祓いを受けた。

 おじいちゃんは僕の足元の影を困ったような笑顔で見ているし、父さんも自分の影を僕の影に重ねている。

 二人とも何も言わないけど、きっと諸々お見通しなんだろう。

 おじいちゃんは「ついでだから」と風呂敷と檜扇にも御神酒をかけて清めてくれた。




 次の日の昼過ぎ。

 僕は空き地の木陰で、猫娘に風呂敷と檜扇を返した。

 すぐ側でメブキさんが昼寝をしているし、メトロが虫を追いかけて跳ねていた。

 影は木の影に沈んでうとうとしている。


「あら、穢れを祓っておいてくれたのね」

「うん。レンタル料」


 僕がうそぶくと、猫娘は肩をすくめた。


「ふふ、残念。ふんだくってやろうと思ってたのに」

「代わりに、これをやろう」


 おじいちゃんから借りてきたお椀とサイコロを取り出すと、猫娘が嬉しそうに笑った。

 メブキさんが起き上がって寄ってくる。


「では、私が賽を振りましょう」

「よろしく」

「何を賭けるの?」

「君が勝ったら、午後いっぱい撫でてあげる」

「あら、勝たなくちゃ」

「僕が勝ったら」


 猫娘の耳元でささやくと、彼女は顔を真っ赤にした。


「んにゃっ、なに、なにそれ!!」

「僕はどっちだっていいんだよ。メブキさん、投げてください」


 メブキさんは微笑んで、前足で器用にお椀を持った。

 影が木の影から出てきて、あくびをしながらお椀を見ている。

 賽は投げられた。
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