妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「ルドヴィク様、随分なおっしゃりようではありませんか。私が婚約解消を嫌がったことなんてありました?」
怪訝そうにこちらを見たルドヴィク様の顔が、私の顔を見た瞬間さっと青ざめる。フェリーチェも驚いたように私を見ていた。
「ジュ、ジュスティーナ……」
「私、以前婚約者をフェリーチェに代えてはどうかと提案いたしましたよね? その時は出来ないときっぱり否定なさっていたではありませんか」
「な、何を言っている! そんなことは……」
ルドヴィク様が焦った顔になる。隣からフェリーチェが彼に、怪訝な顔で「どういうことですの?」と尋ねている。
「ち、違う! 俺は否定した覚えなどない! どうせお前がわかりにくい言葉で伝えてきたんだろう。俺の意思としてはフェリーチェが一番大切で……」
「そうですか。何か行き違いがあったようですね」
きっとルドヴィク様が認めてくれることはないだろうと思い、反論せずにポケットから契約石を取り出す。それから石を持った手を前に突き出した。
訝しげにこちらを見ていたルドヴィク様だったけれど、私が何をする気なのか察したのか、途端に慌てたように立ち上がった。
「おい、ジュスティーナ! やめろっ」
「私はルドヴィク様の婚約者でいたいなんて望んでいませんわ」
そう言いながら契約石を地面に落とし、上から踏みつけた。
石が割れる鋭い音が辺りに響く。ルドヴィク様が悲鳴のような声を上げる。
「ジュスティーナ!! お前、自分が何をやったのかわかっているのか!?」
「もちろんわかっております。契約石は壊れました。これでルドヴィク様、心置きなくフェリーチェと婚約し直せますね」
契約石を使った婚約は、基本的に両者が納得して神殿で契約を解かないと解消できない。
しかし、例外が一つある。それが、契約石自体を壊してしまうことだ。
石さえ壊してしまえば、どちらかが納得していなくても契約は無効になる。
ただし、この方法で契約を解くと二度と同じ相手と婚約出来ないという制約はあるけれど。
また契約石を使った婚約は基本的に貴族同士で行うものなので、両者の関係を悪化させかねない石を割るような強引な手段に出る人は、滅多にいない。
私も自分がこんな方法を使うとは考えたこともなかった。けれど彼らの仕打ちに耐えるのが、急に嫌になってしまったのだ。
ルドヴィク様は割れた契約石を呆然と見つめている。フェリーチェも驚いた顔をしていたものの、すぐに明るい顔になってルドヴィク様の腕に手を回した。
「ルドヴィク様! 何を固まっているんですか? これでお姉様との婚約を解消できたじゃありませんか!」
「あ、ああ、そうだな、フェリーチェ……」
「これで私たち婚約できますわね! 怒られるのはお姉様一人ですものね! ああ、よかったですわ」
フェリーチェは歌うように言う。一方、ルドヴィク様はぎこちなくそんなフェリーチェの言葉に相槌を打つばかりだった。
私は二人に背を向けてその場を後にする。
後ろからフェリーチェがのん気な声で、「お姉様、帰りませんの? それなら私一人で馬車に乗って帰りますからね!」なんて言ってきたけれど、答えないまま走り去った。
胸がまだどきどきしている。
ルドヴィク様にあんな態度を取ったのは初めてだ。できるだけ冷静を装おうとしていたけれど、本当はすごく怖かった。
けれど、走っているうちに達成感が込み上げてきた。
婚約破棄してやった。私にだってできるのだ。
私はもう、ルドヴィク様にもフェリーチェにも決して惑わされない。
怪訝そうにこちらを見たルドヴィク様の顔が、私の顔を見た瞬間さっと青ざめる。フェリーチェも驚いたように私を見ていた。
「ジュ、ジュスティーナ……」
「私、以前婚約者をフェリーチェに代えてはどうかと提案いたしましたよね? その時は出来ないときっぱり否定なさっていたではありませんか」
「な、何を言っている! そんなことは……」
ルドヴィク様が焦った顔になる。隣からフェリーチェが彼に、怪訝な顔で「どういうことですの?」と尋ねている。
「ち、違う! 俺は否定した覚えなどない! どうせお前がわかりにくい言葉で伝えてきたんだろう。俺の意思としてはフェリーチェが一番大切で……」
「そうですか。何か行き違いがあったようですね」
きっとルドヴィク様が認めてくれることはないだろうと思い、反論せずにポケットから契約石を取り出す。それから石を持った手を前に突き出した。
訝しげにこちらを見ていたルドヴィク様だったけれど、私が何をする気なのか察したのか、途端に慌てたように立ち上がった。
「おい、ジュスティーナ! やめろっ」
「私はルドヴィク様の婚約者でいたいなんて望んでいませんわ」
そう言いながら契約石を地面に落とし、上から踏みつけた。
石が割れる鋭い音が辺りに響く。ルドヴィク様が悲鳴のような声を上げる。
「ジュスティーナ!! お前、自分が何をやったのかわかっているのか!?」
「もちろんわかっております。契約石は壊れました。これでルドヴィク様、心置きなくフェリーチェと婚約し直せますね」
契約石を使った婚約は、基本的に両者が納得して神殿で契約を解かないと解消できない。
しかし、例外が一つある。それが、契約石自体を壊してしまうことだ。
石さえ壊してしまえば、どちらかが納得していなくても契約は無効になる。
ただし、この方法で契約を解くと二度と同じ相手と婚約出来ないという制約はあるけれど。
また契約石を使った婚約は基本的に貴族同士で行うものなので、両者の関係を悪化させかねない石を割るような強引な手段に出る人は、滅多にいない。
私も自分がこんな方法を使うとは考えたこともなかった。けれど彼らの仕打ちに耐えるのが、急に嫌になってしまったのだ。
ルドヴィク様は割れた契約石を呆然と見つめている。フェリーチェも驚いた顔をしていたものの、すぐに明るい顔になってルドヴィク様の腕に手を回した。
「ルドヴィク様! 何を固まっているんですか? これでお姉様との婚約を解消できたじゃありませんか!」
「あ、ああ、そうだな、フェリーチェ……」
「これで私たち婚約できますわね! 怒られるのはお姉様一人ですものね! ああ、よかったですわ」
フェリーチェは歌うように言う。一方、ルドヴィク様はぎこちなくそんなフェリーチェの言葉に相槌を打つばかりだった。
私は二人に背を向けてその場を後にする。
後ろからフェリーチェがのん気な声で、「お姉様、帰りませんの? それなら私一人で馬車に乗って帰りますからね!」なんて言ってきたけれど、答えないまま走り去った。
胸がまだどきどきしている。
ルドヴィク様にあんな態度を取ったのは初めてだ。できるだけ冷静を装おうとしていたけれど、本当はすごく怖かった。
けれど、走っているうちに達成感が込み上げてきた。
婚約破棄してやった。私にだってできるのだ。
私はもう、ルドヴィク様にもフェリーチェにも決して惑わされない。