妹ばかり見ている婚約者はもういりません

3.俺は間違ってない ルドヴィク視点

 ジュスティーナの遠ざかって行く背中を見つめながら、俺はただ呆然とすることしか出来なかった。

 契約石の割れる音。こちらを真っ直ぐ見据えるジュスティーナの目。

 あれが本当にジュスティーナなのだろうか。いつも俺が何を言っても反論してこなかったくせに、突然こんな暴挙に出るなんて。


 俺は少々焦っていた。両親にはいつも散々ジュスティーナを大切にしろ、逃げられるようなことはするなと言い聞かされている。

 あんな地味で平凡な女のご機嫌を取るなんて納得がいかなかったので、そんな言いつけは聞き流していたが、実際契約石を壊されてみると両親の鬼気迫るような顔がやたらと思い浮かんでくる。

 この俺がジュスティーナごときに動揺させられるなんて、なんとも屈辱的な気分だ。


「……様、ルドヴィク様っ」

「!! ああ、どうした? フェリーチェ」

 横から腕を揺すられ、ようやく今はフェリーチェも一緒にいたことを思い出した。

 フェリーチェは俺が視線を向けると、嬉しそうに顔を綻ばせる。

「まさかお姉様のほうから婚約破棄してくれるなんて思いませんでしたわね! 幸運でしたわ。いつ私と婚約してくださいますか?」

 フェリーチェは明るい声でそう尋ねてきた。

 彼女のそんな顔を見ていたら、あっという間に焦りや動揺が消し飛んでいく。

 フェリーチェはジュスティーナの妹だというのに、全く似ていない。柔らかそうな明るい茶色の髪に、透き通るような水色の目。何より、くるくる変わる表情は、俺を惹きつけて離さなかった。

 そうだ、何を焦っていたのだろう。

 ジュスティーナのほうから契約石を壊してくれたのだ。これで問題なくフェリーチェと婚約できるはずだ。

 ジュスティーナを大切にしろとうるさい両親だって、向こうが契約石を壊したのだと言えばさすがに諦めるだろう。契約石を壊しての婚約破棄は、二度と同じ相手と婚約し直すことができないのだから。

 そう考えると随分心が軽くなり、俺は笑顔でフェリーチェに言った。


「そうだな、すぐにでも君と婚約しよう。ローレ子爵夫妻にご挨拶に行かないとな」

「ええ、きっとお父様もお母様も賛成してくれますわ!」

 フェリーチェは嬉しそうにそう言う。

 それからフェリーチェは唇に指をあて、楽しそうに言ってきた。

「ルドヴィク様、来週に一回目のダンスパーティーがあるでしょう? このタイミングなら私たち二人で参加できますわね!」

「ああ、そう言えばそうだな」
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