妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「あれ、ラウロ・ヴァレーリよね……? 女子生徒と馬車から降りてきたわよ。あの人一体誰なのかしら」

「私、知ってるわ。A組のジュスティーナ嬢よ。ルドヴィク様っていうお金持ちで容姿端麗な男子生徒の婚約者の」

「なんで婚約者のいる方が、あの悪魔と一緒に学園に来るの……?」

 周りからの視線が痛い。みんな訝るような目でこちらを見ている。しかし、女子生徒の一人が口にした「悪魔」という言葉はどういう意味なのだろう。

 見覚えのない男子生徒の一人がこちらを見て、「あのご令嬢、悪魔のラウロに殺されるんじゃないか」と言うのが聞こえた。

 物騒な言葉に、眉をひそめてそちらを見遣る。


「すまない、ジュスティーナ嬢」

 ふいに横からラウロ様の申し訳なさそうな声が聞こえた。視線を向けると、ラウロ様は眉間に皺を寄せ難しい顔をしている。

「俺のせいで目立ってしまったようだ。明日からは別々に来よう」

「そんな、ラウロ様のせいでは……!」

 私はすぐさま首を振る。悪魔だとか殺されるとかの言葉は皆が勝手に言ってるだけだし、婚約者云々で言われているのは私の責任だ。

 しかし否定する私に、ラウロ様はきっぱりした声で言う。

「君のように美しい令嬢の評判を、俺みたいな醜い男といるせいで落とすわけにはいかないからな」

 ラウロ様の声は淡々としていて、まるでただ事実を述べているだけとでも言いたげだった。私はなんだか納得がいかなくなる。

 顔に少し痣があるくらいで醜いだなんて。私にはラウロ様の切れ長の青い目も、真っ直ぐな黒髪も、半分黒い痣で覆われた肌だって、とても美しく見える。

 大体、悪魔とは何なのだ。本気でラウロ様に言っているの?

 ラウロ様は会ったばかりの私が困っているからと家に置いてくれて、私のちっぽけな魔法を大袈裟なくらい褒めてくれて、私のされた仕打ちに本気で怒ってくれるような、とても優しい人なのに。

 考えていたらムカムカしてきた。気が付くと、私はラウロ様の腕に自分の腕を回していた。


「!? ジュスティーナ嬢……!?」

「行きましょう、ラウロ様! それと、明日も明後日も一緒に学園に来ましょう! 約束ですからね!」

 驚いた顔をしているラウロ様を引っ張るように、校舎に向かって歩いていく。こちらを見てひそひそ話していた生徒たちの顔が一斉にぽかんとした顔になった。

 呆気に取られる周りに構わず、ただ早足で進んでいった。


***


「ジュスティーナさん! 今朝の、どういうことですか!?」

 ラウロ様と別れ、自分の教室に着くと、友達のミリアムさんが凄い勢いで駆けてきた。ミリアムさんは赤毛のポニーテールを揺らして、動揺しきった様子でこちらを見ている。

「ラウロ様と来たことですか? 少し込み入った事情があって」

「ちょっと詳しく教えてくださいまし!!」

 ミリアムさんはそのまま私を攫うように、教室の外の人気のない階段まで連れて行く。それから周りに人がいないのを確認すると押し殺したような声で尋ねてきた。
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