妹ばかり見ている婚約者はもういりません
***
その日は一日中、周りの生徒たちからちらちら見られながら過ごした。どうやら今朝ラウロ様と一緒に来たことが学園中に広まってしまったらしい。
「あのラウロと一緒の馬車で来たって」、「腕まで組んでたって聞いたけど」、「悪魔の恋人か何かなのか?」だなんて、噂がたくさん聞こえてきた。
私は別に構わないけれど、ラウロ様も同じように好奇の目で見られていたら申し訳ないと思った。注目されている中でわざと腕まで組んだのはやり過ぎだったかもしれない。
廊下を歩く度に注目を浴びて、休み時間の度に質問攻めにされて、すっかり疲れながらも何とか一日が終わった。
また質問攻めにあわないよう、急いで教室を後にする。
帰りもラウロ様の家の馬車に乗せてもらう約束だ。しかしこのまま彼の元へ行こうものなら、さらに注目を浴びてしまうのはわかりきっている。
どうしようかと人気のない渡り廊下のところで考え込んでいると、後ろから聞き慣れた軽やかな足音が聞こえてきた。
「ジュスティーナお姉様!」
やって来たのは、フェリーチェだった。薄茶色の髪を揺らし、相変わらずの愛らしい笑顔でこちらを見上げている。
「フェリーチェ……」
「もう、昨日は急にラウロ・ヴァレーリの家にしばらくお世話になるなんて連絡が来るから驚いちゃったわ。お父様もお母様も、通信機を切った後かんかんに怒ってたわよ!」
フェリーチェは眉尻を下げ、困ったものを見るような目で言う。
私が家に帰れなくなった原因については、ちっとも責任を感じていないらしい。
「そう、それはごめんなさいね。しばらく帰るつもりはないから、私のことは放っておいてちょうだい」
早めにその場を立ち去りたくて、それだけ言って背を向ける。するとフェリーチェに甘ったるい声で呼び止められた。
「待って、お姉様! せっかく可愛い妹が心配して見に来てあげたのよ?」
「心配……?」
「そうよ。私、本当に心配してたんだから。ラウロ・ヴァレーリって、悪い噂が絶えない悪魔みたいな人なんでしょ? そんな人と一緒にいて大丈夫なのかしらって」
うんざりした思いでフェリーチェを見る。一体、どうして誰も彼も彼を悪く言うのだろう。顔をしかめる私に構わず、フェリーチェは続ける。
「それにあの醜い痣! よくあんな人と一緒にいられるわね。私だったらあんな醜い人と並んで歩くなんて絶対無理。お姉様、勢いでルドヴィク様と婚約破棄しちゃって焦っているのはわかるけど、相手はもう少し選んだほうがいいんじゃない?」
フェリーチェは意地の悪い笑みを浮かべ、嘲るように言った。不愉快な思いが胸に広がっていく。
「ラウロ様は醜くなんてないわ。大体、人の痣のことをとやかく言うなんて失礼よ。やめてちょうだい」
「まあ、お姉様ってとっても優等生で素晴らしいわね! でも、私は醜いと思ってしまうんだからしょうがないじゃない。普通は顔半分に痣がある人なんて敬遠すると思うわ」
「フェリーチェ!」
いいかげんにしてと言おうとしたところで、今度はフェリーチェの方がくるりと背を向けてしまった。
「じゃあね、お姉様。顔も見られたことだし私はもう行くわ。ルドヴィク様のことは私が幸せにしてあげるから心配なさらないでね!」
フェリーチェは一度だけ振り返ってそう言うと、さっさと歩いていく。
残された私には苦々しい気持ちだけが残った。
もうフェリーチェに惑わされないと誓ったはずなのに、相変わらず動揺させられている自分が悔しかった。
その日は一日中、周りの生徒たちからちらちら見られながら過ごした。どうやら今朝ラウロ様と一緒に来たことが学園中に広まってしまったらしい。
「あのラウロと一緒の馬車で来たって」、「腕まで組んでたって聞いたけど」、「悪魔の恋人か何かなのか?」だなんて、噂がたくさん聞こえてきた。
私は別に構わないけれど、ラウロ様も同じように好奇の目で見られていたら申し訳ないと思った。注目されている中でわざと腕まで組んだのはやり過ぎだったかもしれない。
廊下を歩く度に注目を浴びて、休み時間の度に質問攻めにされて、すっかり疲れながらも何とか一日が終わった。
また質問攻めにあわないよう、急いで教室を後にする。
帰りもラウロ様の家の馬車に乗せてもらう約束だ。しかしこのまま彼の元へ行こうものなら、さらに注目を浴びてしまうのはわかりきっている。
どうしようかと人気のない渡り廊下のところで考え込んでいると、後ろから聞き慣れた軽やかな足音が聞こえてきた。
「ジュスティーナお姉様!」
やって来たのは、フェリーチェだった。薄茶色の髪を揺らし、相変わらずの愛らしい笑顔でこちらを見上げている。
「フェリーチェ……」
「もう、昨日は急にラウロ・ヴァレーリの家にしばらくお世話になるなんて連絡が来るから驚いちゃったわ。お父様もお母様も、通信機を切った後かんかんに怒ってたわよ!」
フェリーチェは眉尻を下げ、困ったものを見るような目で言う。
私が家に帰れなくなった原因については、ちっとも責任を感じていないらしい。
「そう、それはごめんなさいね。しばらく帰るつもりはないから、私のことは放っておいてちょうだい」
早めにその場を立ち去りたくて、それだけ言って背を向ける。するとフェリーチェに甘ったるい声で呼び止められた。
「待って、お姉様! せっかく可愛い妹が心配して見に来てあげたのよ?」
「心配……?」
「そうよ。私、本当に心配してたんだから。ラウロ・ヴァレーリって、悪い噂が絶えない悪魔みたいな人なんでしょ? そんな人と一緒にいて大丈夫なのかしらって」
うんざりした思いでフェリーチェを見る。一体、どうして誰も彼も彼を悪く言うのだろう。顔をしかめる私に構わず、フェリーチェは続ける。
「それにあの醜い痣! よくあんな人と一緒にいられるわね。私だったらあんな醜い人と並んで歩くなんて絶対無理。お姉様、勢いでルドヴィク様と婚約破棄しちゃって焦っているのはわかるけど、相手はもう少し選んだほうがいいんじゃない?」
フェリーチェは意地の悪い笑みを浮かべ、嘲るように言った。不愉快な思いが胸に広がっていく。
「ラウロ様は醜くなんてないわ。大体、人の痣のことをとやかく言うなんて失礼よ。やめてちょうだい」
「まあ、お姉様ってとっても優等生で素晴らしいわね! でも、私は醜いと思ってしまうんだからしょうがないじゃない。普通は顔半分に痣がある人なんて敬遠すると思うわ」
「フェリーチェ!」
いいかげんにしてと言おうとしたところで、今度はフェリーチェの方がくるりと背を向けてしまった。
「じゃあね、お姉様。顔も見られたことだし私はもう行くわ。ルドヴィク様のことは私が幸せにしてあげるから心配なさらないでね!」
フェリーチェは一度だけ振り返ってそう言うと、さっさと歩いていく。
残された私には苦々しい気持ちだけが残った。
もうフェリーチェに惑わされないと誓ったはずなのに、相変わらず動揺させられている自分が悔しかった。