妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「あれって……王族の証の剣ですよね?」

 あの短剣を見たとき、なぜどこかで見たことがあるように感じたのか。先ほどコルラード殿下がラウロ様に向けた短剣を見て、既視感の正体を思い出した。

 あれは、フォリア王国の王家に男児が生まれたとき、王族の証として賜る剣なのだ。

 我が国の王子は、その短剣を常に肌身離さず持っている。式典の際、王子は必ずあの短剣を見えるように身に着けるため、国民なら誰でもその存在を知っていた。

 それなのにすぐに気づかなかったのは、本来ならその王族の証の短剣は、輝くばかりの金色をしているからだ。


「よく気づいたな。真っ黒で宝石もくすんでいるから、ぱっと見ただけではわからなかっただろう」

「最初は気づかなかったのですが、先ほどコルラード殿下が持ってらっしゃるのを見て思い出したんです」

「なるほど。本来は人を切りつけるのに使うような剣ではないんだがな」

 ラウロ様は苦笑いしながら言った。

 私は少し躊躇いつつも、尋ねてみた。

「……王族の証である大事な剣を、あんな風に放っておいていいのですか?」

 あの短剣は、本来なら肌身離さず持っているべきもののはずだ。けれど、ラウロ様の短剣は書庫の床に剥き出しのまま、打ち捨てられるように置かれていた。

 まるで、ぞんざいに扱って欲しいとでも言うように。


「本来なら適当に扱っていい品ではないのはわかっているんだが、あの短剣を見ていると、どうにも自分を重ねてしまって嫌なんだ。あの短剣は、眠っている俺と一緒にロジータ妃が呪いをかけたらしいから」

 ラウロ様は目を伏せながら言う。

 巻き付いた蔦の形がラウロ様の痣と同じことから予想はしていたものの、やはりあの短剣にも呪いがかけられていたらしい。

「ラウロ様、あの短剣を見せてもらってもいいですか?」

「もちろん構わないが……」

 私が頼むと、ラウロ様は少し戸惑ったようにしつつも了承してくれた。


 私はラウロ様と研究室を出て、書庫の方まで向かう。

 短剣は先ほど私が戻したままの場所にあった。やはり近づいただけで不安になるような禍々しい空気を放っている。

 そっと短剣を手に取った。短剣に絡みついた蔦を指で撫でると、ラウロ様の頬に触れたときと同じようにビリビリと小さな痛みが走る。

「この蔦、ラウロ様の顔の文様と似ていますよね」

「そうだな。色んな種類の蔦を調べてきたが、痣と同じ形をした蔦はこの短剣に巻き付いているもの以外見つからなかった」

 ラウロ様は私の手元の短剣を眺めながら、難しい顔で言う。
< 59 / 108 >

この作品をシェア

pagetop