妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「そういうことを言うのはやめてくれ。ジュスティーナ嬢が困るだろう」
「だってわざわざ王宮に呼ぶだなんて、お礼でなかったらそうとしか考えられませんわ! そうだといいですわね。私は将来はジュスティーナ様にお嫁に来てもらって、このお屋敷の女主人になってもらいたいのです」
「エルダさん……!」
目を閉じて楽しそうな顔で言うエルダさんを、ラウロ様は顔を赤くして止めている。
私はというと、冗談にしてもエルダさんの言葉に動揺してしまって、二人のやり取りをただ聞いていることしか出来なかった。
***
そういうわけで、私は約束の日、ラウロ様と王宮へ向かうことになった。
当日はラウロ様のお屋敷の前まで王宮の立派な馬車が迎えに来たので、向かう前からすっかりどぎまぎしてしまった。
国王陛下と王妃様に直接会うなんて、初めてのことだ。
式典や大きなパーティーで遠目に姿を拝見したことはあるけれど、当然会話をしたことなんてない。
馬車が進む度、緊張が増していった。
「ジュスティーナ嬢、もしも陛下や王妃様に言われたことで不快になったら遠慮なく言ってくれ。すぐに王宮を出て行くから」
ラウロ様は真面目な顔でこちらを見て言う。
気持ちはありがたいけれど、国王両陛下のお呼び出しに対してそんな失礼なことは出来そうもない。
「ありがとうございます。けれど、陛下も王妃様もそのようなことはおっしゃらないと思いますわ」
「もしもの話だ。君に嫌な思いはさせたくないんだ」
ラウロ様は眉根を寄せ、真剣な顔で言う。
そこまで心配してもらえるだけで、初めて両陛下に謁見する緊張も乗り切れそうな気がした。
お呼び出しを途中退出する気にはなれなかったけれど、ひとまずラウロ様の言葉にはお礼を言っておくことにした。
馬車が王宮庭園の門をくぐり、そこからさらに庭の中を長時間進んで、ようやく王城へ到着した。
ラウロ様に手を差し伸べられ、馬車から降りる。
目の前には見上げるほど大きな城門があった。
「お待ちしておりました、ラウロ殿下。ジュスティーナ様」
出迎えてくれたのは、執事服を着た白髪頭の男性だった。彼は深く頭を下げた後、私達に向かってついてくるように言う。
彼に案内され、広い城の中を歩いた。
やがて、天使の彫刻が彫られた重々しい扉が目の前に現れる。
「陛下と王妃殿下はこちらでお待ちです」
執事はそう言うと、恭しい態度で扉を開ける。
促されて、ラウロ様と部屋の中へ足を踏み入れた。執事は扉の前で頭を下げると、そのまま部屋を後にする。
部屋はそれほど広くはなく、普通のお屋敷の客間のような造りをしていた。
真ん中には大きなテーブルがあり、後ろにはアンティーク調の家具が並んでいる。
玉座の前に通されるのを想像していた私は、通されたのが意外と普通の部屋でほっとしてしまった。
部屋の奥には、珍しい植物の鉢植えがたくさんあり、近くで見てみたいなんて考える余裕まで出てくる。
しかし、部屋の奥の扉から国王陛下と王妃様が姿を現すと、そんな余裕のある気持ちはすぐにどこかへ行ってしまった。