桜の降る時間で、君を待つ

同じ朝の風(あかり視点)

通学路の桜並木が、今日も薄桃色に揺れていた。

風に舞う花びらが、まるで時間の砂みたいに見える。

私は歩きながら、何度もスマホの時計を見た。

午前七時三十二分。

いつもより三分早い。

それなのに、心の中は妙に“遅れている”気がしてならなかった。

交差点の角を曲がると、小さな雑貨店の前に見慣れた黒猫がいた。

「……あれ?」

その猫、前にもここで見た気がする。

同じポーズで、同じ方向を見ていた。

まるで、昨日と今日が重なっているみたい。

学校の門に着くと、ちょうど鐘が鳴った。

その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。

「午後五時四十分……」

思わず口にして、ハッとする。

どうしてそんな時間を思い浮かべたんだろう。

教室に入ると、友達の声が聞こえた。

「ねぇ、今日転校生が来るんだって!」

その言葉を聞いた瞬間、
世界が止まったように感じた。

転校生。

心のどこかで、その響きを知っている。

でも、まだ思い出せない。

ホームルームの扉が開き、担任の先生の声が響いた。

「今日からこのクラスに転校してきた、柊蓮くんです」

目の前の光景が、昨日と同じように広がる。

黒髪の少年がゆっくりと頭を下げ、
顔を上げた瞬間、彼と目が合った。

彼の表情が、わずかに変わった。

驚きと、安堵と、そして――ほんの少しの希望。

その目が言っていた。

“今回は……違うのかもしれない”
胸の奥が熱くなる。

私はその理由を知らない。

けれど確かに感じた。

この瞬間を、
私はもう一度生きている。


< 8 / 17 >

この作品をシェア

pagetop