君のためにこの詩(うた)を捧げる

第7話「君の涙を隠す場所」

雨が降り続いていた。



冷たく、痛いほどの雨。



まるで、誰かの涙を隠すみたいに。



その朝、学校中がざわついていた。



廊下でも、教室でも、みんなが同じ画面を見つめている。


《橘輝、抱擁写真流出――撮影現場外での親密な姿?》


記事には、
校舎の裏で輝が誰かを抱きしめている写真。



顔はぼんやりしているのに、
スカートの柄も、髪の長さも、澪そのものだった。


「これ……澪、じゃない?」



「やば、マジでそうじゃん」



「え、ほんとに付き合ってたの!?」



次々と飛び交う声。



澪は何も言えず、ただ俯いた。



机の上で震える手を握りしめる。



“あの時”――
雨の屋上で、輝が「君を奪う」と言ったあの瞬間。



そのほんの数秒を、誰かが撮っていた。



(どうして……あの場所、誰もいなかったのに)


七海が席から立ち上がり、
澪のもとへ歩いてきた。



「……ほんとに、あれ澪なの?」



「……違うよ」



「嘘。私、知ってる。
あの日、ひかるが急に現場から抜け出して……“澪のところに行った”って言ってた」


七海の声は震えていた。



怒りでも、嫉妬でもなく――傷ついたような声だった。


「私、あの人の隣に立ちたかったのに。
“演技の中だけでも”って思ってたのに……
本当に想ってたのは、澪なんだね」



そう言って、七海は笑った。



でもその笑顔は、どこまでも痛かった。


「ごめんね、七海……」



「いいよ。恋に罪はないから」


そう言い残して、七海は教室を出ていった。



その背中を見送ることも、できなかった。

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