君が大人になった時、もしまだ俺のことが好きだったなら・・・
「那奈ちゃん、私、電話してくるね」
「あ、はーい」
重い沈黙を破るように、隣のベッドの女性が話しかけ、病室から出て行った。
二人きりになった病室はシーンと静まり返っていた。

「小林さん」
「ん?」

「ケガのこと知らなくて。
見舞いに来るの遅くなってごめんな」
「えー。いいよそんなの。
先生、顧問でも担任でもないじゃん」

確かに、ただの一教員が見舞いに来るのもおかしな話だ。
だか、小林に言われた言葉にショックを受ける自分がいた。

「そうなんだが。
小林さんはなんか・・・普通の、素の俺を知る唯一の学園生だしさ。
なんというか・・・心配だった」
「・・・ありがとう、心配してくれて」

「膝、痛むか?」
「うん。痛い」

「そうか」
「めちゃくちゃ痛い」

「こば「ものすんごーっく、痛い!」
「・・・・」

「・・・ここが・・・胸がすごく痛くて、苦しくて…息ができないよ」
「小林・・・」
思わず胸を押さえる小林の腕を取りそうになって、ぐっと拳を握りしめた。

「『小林』って言ってくれた」
「ん?」

「先生、いつも誰にでも『さん』付けで名前を呼ぶの。
私のこと『小林』って呼ぶようになったと思ったら、また『小林さん』に戻ってたから寂しかったんだ。
こんな風に距離を取られるなら告白なんてしなきゃよかったって思ってた」
「・・・・・」

「どうしてきたの?」
「・・・心配だった」

「はぁ‥‥ほんと・・・先生っていつもそうなんだね」
「?」

「私が怪我したから?」
トンと、俯いた小林が俺の胸を叩いた。

「自分と重なっちゃった?」

トン。


「自分が辛かったから私も辛いだろうなって思ったの?」

トンッ。

「止めて! そんなのいらない!」

ドン。

だんだん大きくなる声。しかし、俯く彼女の表情を窺うことはできなかった。

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